夏 の 雲 (辰中)


雲みたいな奴だと思う。

風に流れるように振る舞えば頑固として動かず影を落とし、ともすれば雨も雷も自在に落とす。
頼りないわけでもなく悠々と空に横たわる夏の雲。

「お邪魔ー」

ノックのあとに続く声と一緒に中西が入ってくる。
ノックの意味がないと思うのだがするだけましだろう、前よりはずっと。

「あのさぁ辰巳、理科聞いていい?」

机に近付いてくる中西は風呂上がりらしく髪が水分を含んでいる。
辰巳の前に問題集を広げてこれ、と指差す。自分がやっていたのは数学だったがそのノートに簡単に説明してやる。
わざわざ辰巳に聞かなくても解説でも見れば理解できる頭だろうに。
サイズの大きいシャツから伸びた手が問題集をなぞるのを目で追った。

「なんて顔してんの?」
「・・・どんな」
「ものほしそうな顔」

振ってきた唇が驚くほど冷たい。同じように冷たい中西の手が辰巳の手を取った。

「あ、辰巳の手温い」
「お前は冷たすぎだ」
「今まで藤代達と雨天バドミントンしてたのよ」
「・・・夕立の中をか」
「うん。流石に雷鳴ってきたから引き上げたけど」
「風呂行って体温めてこい、風邪ひくぞ」
「ん〜・・・めんどい」

辰巳の手を離し、かと思えば指を絡めてくる。
何処までも冷たい中西の手。自分の手は熱すぎてその冷たさが気持ちいい。

「辰巳にあっためてもらおうかな」
「・・・・」

溶けない氷。

・・・やっぱり雲、この手に掴むことが出来ない。

 

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