双 子 の 片 方 (辰中)


「今日はひとりなの?」
「…どういう意味ですか」

嫌そうな辰巳の顔を笑って、窓から顔を出した校医はまあまあ、となだめて手招きした。帰る途中だったが彼女は手に「非常食箱」を持っている。要するに校医が隠しているお菓子が入っていて、辰巳は今空腹だった。保健室にはポットもある。

「…お邪魔します」 「はいどうぞ」

グランドに面したドアから保健室へ入る。何だかんだで縁のある校医とは親しい。きっかけは、さっき言われた 「今日はひとり」と関係してくるわけだが。

「お茶は何?」
「何でも」
「あははっ、辰巳くんは簡単な子でいいわ。中西くんうるさくて」
「一緒にしないで下さいよ…」

玄米茶、と差し出された湯呑みを手にする。平和だ。保健医はまた笑った。近所の幼稚園に3歳の娘を毎朝連れていってから出勤している彼女は、ふっくらとしていて子どものような顔をしている。非常食箱の中身は小さなドーナツ。チョイスが子ども向けなのは仕方ない。

「今日は部活休みなのねえ。まあ君のとこはハードだからたまには休まないとね」
「ここは今日は暇なんですね」
「昨日ふざけが過ぎて保健室で怪我されちゃってねえ、1週間入室禁止にしたのよ」

まあ食べて、進められるものは断らずに口へ運んだ。ねえ私ずっと聞きたかったんだけど、はしゃいだ声に顔を上げる。

「中西くんといつから付き合ってんの?」
「ぶっ」
「昔の中西くんはナイフみたいに尖ってたけど、丸くしたのは君でしょ?」
「…あんな扱いにくい奴、削ろうにも逃げていって」
「あらあら。まあしょうがないわよね、ふたりもいちゃ」
「は?」
「双子の中西ズと交代でお付き合いしてるんでしょ?」
「……先生」
「知らなかったの?」
「あんな神経質がふたりいたら見分けつきます」

辰巳を見ていた校医はドーナツを食べる手を止めた。辰巳は落ち着いてお茶をすする。

「……辰巳くん、うちの子みたい」
「なんでですか」
「あたしも双子の片割れなんだけど、うちの子は騙せないのよね」

それだけよく見てるってことかしら。ほめられたのかバカにされたのか、どっちにしても複雑な気持ちで辰巳は眉を寄せる。急須からお茶を入れ直し、腹へ栄養を送った。

「……3年見てりゃ」
「…エ、付き合い始めたの割に最近じゃない?あたしのレーダーにはかかってないんだけど」
「中西のレーダーにだってかかってない平和な頃があったんですよ俺にも…」
「あら…あらら?そうなの?そうなの?」

片思いだったの?態度を迷う校医にはっとして、慌てて立ち上がった辰巳はベッドを覗く。残念ながら中西くんはいないわよ、その声をすぐには信用せず保健室を一周した。

「なあんだ、安心した」
「…何でですか」
「中西くんの片思いだったら可哀想だなと思ってたから」
「…そうでもなきゃ、あんなやつとつき合えません」
「…あーウン、あたしでもそうかな」

君双子の兄みたい。校医のコメントに辰巳はこれ以上ないほどに顔をしかめた。

「せ〜んせッ…あれ、辰巳?」
「ご馳走様でした」
「まあまあ待ちなさいよ」

来客の姿を見た途端に席を立った辰巳を校医は押しとどめる。保健室に入ってきたのは当の中西で、コンチワ〜と近付いてきて勧められる前にドーナツをつまむ。

「今ちょうど中西くんの話してたのよ」
「なんて?麗しすぎて妖精のようだって?」
「言ってない言ってない。中西くんが双子だったら恐怖よね、って話」
「えー、俺が双子だったらやだなあ。絶対辰巳取り合ってるよ。増えたら困る」
「お前分裂とかしそうだからな…」
「ちょっとそれは酷いよ。分裂するぐらいなら俺は胞子で増えるね」
「やめてくれ、死ぬ」
「増えたらうちに子守でひとりちょうだい」
「辰巳が給料なら考えます」
「先生帰ります」

お邪魔しました、と辰巳は保健室を出て行ってしまった。廊下のドアから入ってきた中西は靴がないので追いかけられず、唇を尖らせて逃亡者の背中を見る。

「辰巳ったらシャイボーイだなあ」
「中西くんそれ古い。それにセンセ、あーいうタイプはむっつりだと思うな」
「むっつり〜?」
「うちの旦那に似てるもん」
「…今度のお休み先生んち行っていい?」
「とられそうだからヤダ」

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