か た つ む り (中西)


ぱきん、と、何かを踏みつけた。
恐る恐る足を上げて見ると、・・・・・・かたつむり。
根岸は慌てて辰巳を振り返る。辰巳は不思議そうな顔で根岸を見た。

「どうした」
「 中西居る!!?」
「・・・・・・」

根岸の足元を、見て。
辰巳は青くなって胸ポケットを覗いた。ほっと息を吐くのを見て根岸も肩をなでおろす。

『ネギどったのー?』

そこには居ないはずの中西の声。
根岸は辰巳の方に向かって返事を返す。

「な、何でも!お前すぐ居なくなるから心配になったの!」
『失礼な。つーかポケットの中に入れるのやめてくんない?外見えないから』
「肩に載せて歩けってか」

この厄介者が。
辰巳は声を無視して歩き出す。根岸は踏んでしまったかたつむりに手を合わせて辰巳を追いかけた。

『あのねぇ辰巳、』
「何だ」
『別にポケットの中でもいいんだけど』
「何、」
『今戻りそうって言ったらどうする?』
「・・・・・・」

再び辰巳の血の気が引いた。
ポケットからそれ、中西の声を発したもの、かたつむりを取り出し、辺りを見回して公園に駆け込む。
幸い公園には誰も居ない。辰巳が背の低い草が生えている奥へ入っていき、根岸は小さく溜息を吐いて後を追った。
辰巳が挙動不審なときは間違いなく中西の所為、だと知っているのは今のところ自分だけだ。
小さい子の甲高い声に辰巳が焦り、根岸が振り返って子どもを確認している間に辰巳の何とも言えない奇声が聞こえた。

「・・・やーん辰巳ってば大胆v」
「・・・踏みつぶすぞお前・・・」
「・・・・」

根岸が振り返れば、辰巳が押し倒す形になって下に中西、しかも全くの裸で。
可哀想な辰巳。巻き込んだ本人は自覚をしていないので同情する。根岸は鞄から出した服を中西に投げた。

────武蔵森サッカー部レギュラー、かつ成績優秀容姿端麗(自己申告)かつ問題児。
服を着た中西は汚れを払って立ち上がる。

「今日は戻るの早いね」
「今戻らなくてもいいものを・・・」
「だって俺の意志じゃないしー」

彼らのみが知る、中西の秘密は辰巳は出来れば知りたくなかった。
(本人曰く)デリケートな精神の持ち主である中西はストレスが溜まると殻にこもる、つまるところかたつむりへと変身する。
本人の意思と関わらず周辺事情も気にしてくれないので、問題だけ残された辰巳と根岸のふたりが殻へこもりたい日々だ。
ストレスなんて無縁そうな顔をしておきながら。人間ではないと思っていたが、かたつむり。
辰巳は溜息を吐き、力の抜けた体をどうにか動かして公園を出る。根岸は中西の支度を待って辰巳を追いかけた。

「中西・・・お前もうちょっとどうにかならないのか」
「えー、だって我慢とか嫌いだしー」
「・・・・」

我慢するからストレスが溜まるんじゃないのか?矛盾に突っ込む余力もない。

「それに辰巳と根岸が守ってくれるしね?」
「・・・・」

かたつむりのほうがまだかわいげがある。
辰巳はどっしりと溜息を吐いた。

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