ワ ン パ タ ー ン (土山)


殴ったろかこいつ。綺麗に敷いた布団の上、掛け布団の上で大の字になって眠る男を睨みつける。
畜生。マヨネーズにからし混ぜたる。涙目になりながら、山崎は吸い殻が山になった灰皿を回収した。てきぱきと吸い殻を捨て、灰皿を洗いに行く。その足取りは軽快と言うよりも乱暴。

「山崎ィ、副長は」
「寝〜て〜ま〜す〜」
「…どうした」
「今度という今度は絶対許さん…」
「…またやったんか」

あの人もこりないなぁ。隊士の苦笑も山崎には苛立ちの対象だ。ふぁっきん!呪いの言葉を叫んで再び副長室へ向かう。
怒りの対象のその人は、相変わらず惰眠を貪っていた。その手元には煙草。火がついていたことがはっきりわかるその証拠に、傍の畳に黒い焦げ跡。山崎は洗った灰皿を握りしめ、人が殺せないよう重いガラスからアルミ製のものに最近変えられたそれを、幸せそうに眠る男に向かって力一杯投げつけた。
カァン!凶器は寝癖のついた頭にぶつかり、高い気持ちのいい音をたてる。

「イッ!?」

反応の早いその男、真選組副長、土方はすぐさま起き上がって辺りを見回すが、山崎を見て露骨に顔を歪めた。

「何だよ!」
「何回言やぁわかるんですか!寝煙草禁止!幾つ焦げ跡作ったら気が済むんです!?」
「うっせぇな!瞬間で眠りに落ちてんだよ俺が知るか!」
「布団で吸うなっつってんです!火事になったらどうするんですか!泣く子も黙る真選組の鬼副長が寝煙草で死んだらみっともないことこの上ないでしょう!」
「じゃあテメェで見張ってろよ!」
「なんで俺があんたに付き合って睡眠時間減らさなきゃなんないんですか!」
「副長助勤として俺の健康管理をするのはお前の役目だろうが!」
「なにそれ俺お母さん!?」

バカにして!土方に当たって飛んだ灰皿を拾い、腹を立てた顔に突き付ける。

「もうあんたの世話は一切しません!」
「ンだとォ?」
「あんたみたいな自分勝手な奴の面倒見てらんねーっつってんです!もう知らん!」

パンツ見つからなくて後悔しやがれ!あまりにも情けない捨て台詞を聞いてしまった新隊士が、困って沖田を見た。指南中だった沖田はほっとけ、と顔の前で手を振る。いかにも面倒臭そうな表情だ。

「真選組裏法度そのいち〜、命が惜しくば副長夫妻には手を出すな」
「ふ、副長夫妻?」
「鬼の副長は勿論、妻の山崎もバカ丸出しの顔してっけど腕はかなり立つ。不機嫌なときのあのふたりはほっとけってことだ」

土方の罵声を聞きながら、先輩隊士は涼しい顔で説明する。もう慣れたものだ。月に一度はあのやりとりは繰り返される。嫌でも慣れるだろう。
なんか凄いとこに来ちゃったな。新隊士は早速後悔していた。

 

*

 

「おはようございます。沖田隊長、副長どこかご存知ですか?今部屋へ行ったんですがいなくて…」

あほらしい、とばかりに沖田は顔をしかめた。朝食のシシャモを頬張り、味噌汁で流し込む。

「真選組裏法度そのに〜、副長がいなきゃ山崎自室をまず探せ」
「はい?」
「だから、副長夫妻だっつってんだろ。真選組裏法度そのさん、緊急以外で山崎自室に近寄るな」
「……」
「毎度こうだもんな〜」

笑う先輩隊士の隣で新隊士は青くなるやら赤くなるやら忙しい。

だから何度言えばわかるんだよ!俺の部屋の畳だっつーの!
まもなく山崎の怒鳴り声が響いた。

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