D o n ' t   s p e a k ! !


「………たつみくん」

目の前の本屋店員は硬直した。思わず呟いちゃったけど、それは正解みたいで。こうして見ると、彼は確かに大人びてはいるけれど中学生だ。クラスメイトのその彼が、なんで本屋の店員をしてんの?
後ろに人が並んでいるのに気付いて、辰巳くんは動揺を隠しきれないままレジで型どおりの接客をした。彼がカバーをかけた本を手にしながらも、本屋から離れられないまま辰巳くんを見てしまう。レジに人がいなくなり、辰巳くんがこっちを振り返った。他に店員がいないのを見て、あたしを手招きする。

「あ、…あの」
「誰にも言うなよ」
「…ウン」

秘密がひとつ、あたしの胸に転がり落ちる。

 

 

 

「おはよう」
「あ、お、おはよー、」

次の日、普段と全く変わらない様子の辰巳くんに戸惑う。いつもみたいにさりげない挨拶、でも不意に視線の合う瞬間に、わずかに照れが見えた。昨日はあのままお客が来て辰巳くんはレジに戻ってしまい、結局理由は聞けてない。

(…聞いちゃ駄目、なのかな…)

気になって思わず視線が向く。夢だったのかと頭をかすめた頃、辰巳と目が合った。と言ってももう何度目になるかわからない。
昼休みになったばかりだった。しばらく考えていた辰巳くんがスッと立ち上がり、真っ直ぐ歩いてくる。

、ちょっといいか」
「あ…」

あたしは卵焼きをフォークに刺した間抜けな姿で辰巳くんを見た。まさかこっちに来るなんて思わなかった。
教室は辰巳くんの一言で何故か静かになってしまう。…つまり、視線が集まっているわけで。隣で香織ちゃんが真っ青になっていた。あんた何したのよ!目が必死で訴えかけてくる。そんなこと言われても。

「すぐ済むから」
「…ちょっと、行ってくるね」

フォークを弁当箱に添えて席を立ち、黙って辰巳くんについていく。行き先は廊下を少し行った図書室前。昼時は誰もいない。

「…昨日のこと」
「あ…うん、大丈夫だよ、誰にも言わないから」
「……」

あら、信用されてないんだろうか。大きな背中があたしに無言で訴えている。

「…なんであんなとこ…」
「え?あ、あたしのうちあの辺で」
「…あの辺りなら知り合いいないと思ったのに…」
「た、辰巳くんは?なんで…」
「…親戚の店なんだ。人手足りないからって呼ばれて…」
「へぇ…」
「…絶対ばれないからって」
「……」

ちょっとコメントしづらいのでスルー…。
こっちを向かない辰巳くんは照れてる、んだろうか。

「────が買った本」
「……」

あたし何買ったっけ?………あ…

「ち、違う!あれ頼まれた奴で!」
「…」
「ほ、ほんとに!あーいうの読まないから!」
「いや…俺は内容は知らないんだが…」
「あたしもだよ!」
「……」

ちらり、と視線。知ってるだろ、知ってるよこの人!

「…ほんとに、あたしのじゃないから」
「…いや、何も言うつもりはないけど」
「ほんとです!」

くそう、なんでよりにもよってホモ小説!?なんで頼まれちゃったのあたし!あぁっ…!

「…だ、誰にも言わないでね」
「あぁ」
「でも読んでないからね!」
「はは、」

あぁもう、なんだってそんな余裕の表情。そしてあたしもあまり念押すと余計怪しいっつの。

「……あ」
「どうした?」
「教室帰ったらどうするの?」
「────あ」

今頃教室は大騒ぎかもしれない。辰巳くんは未だにクラスの人に若干誤解されていて、…あんな風に笑うことなんか、あたしぐらいしか知らないんじゃないかと思う。それはちょっと嬉しい。

悩んだ挙げ句に辰巳くんが呟いた言い訳は、あたしの心臓を握り潰すのが目的なんじゃないかと思えた。
告白してたことにでもしようか、なんて。少女漫画ですかこの展開。

 

 


本屋ネタ多い。そしてこの人恥ずかしい。

051110

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