頭調子に乗りすぎた。
つくし:笠井、もじゃ:三上、おぐり:辰巳、因みに転校生:水野。

 

 

あ〜…やばい。やばいぞこれは。俺の中の、血が騒ぐ…って言ったらなんだかかっこよさげだけど。
要するに、俺のお節介の血が。


花 よ り 男 子


さっきまで何事もなかったように昼食を取っていたのだ。新しくできた友人と、さっきまでにこやかに話をして。さぁ教室に戻りますか、とトレイを持って歩き出し、友達が人にぶつかった。しかもよりにもよって最悪の人、三上亮に。
グラスに残っていた水が彼の服にかかった。制服ではなく、お高いブランド物。今まで賑やかだった食堂が静まり返る。
…三上亮。この武蔵森学園の、四天王のひとりだ。

「────何してんだよ」
「あ…」
「あーあー冷たいなァ。俺が肺炎にでもなったらどうすんだ?日本の未来だぜ?」

コップ一杯の水で肺炎になんかなるかよ!貧弱!温室で育ててもらえ!
…何て言えるはずもなく、俺は畏縮したまま立ちすくんでいた。三上の周りには四天王の残りの3人。誰も止める気はない。

「おいお前、責任取れんのか?」
「ッ────」

あ、駄目だ腹が立ってきた。もうちょっと我慢してくれ俺!なんて器用なことが俺に出来るわけがない。そして息を吸い込んで、大声を出す準備を。

「やめっ…!」

俺はあの瞬間を忘れない。さいっこうに不機嫌な三上の目が、真っ直ぐ俺だけをにらんだ。

「……て、下さい…」

俺のバカ。

 

 

 

武蔵森学園、超が数え切れないほどつきそうな名門校。高校からの入学の俺は、今でもこの環境に慣れない。教室の中は見渡す限りのブランド品、俺なんかは名前すらも知らないものだって多い。つまり頑張ったって一般人には拝めない代物だとか。送り迎えはやたらと全長の長い車ばかりで、徒歩の俺は車が走るためだけに作ったとしか思えない校門⇔校舎間に毎日苦しんでいる。おまけに昼飯はフォークとナイフで、ここは何処だっ!?生まれてこの方庶民の俺にはとてもじゃないが理解出来ない世界だった。
そしてこの学園を牛耳っているのが、通称F4、畜生、何がForest4だ。誰をとってもおぼっちゃまお嬢ちゃまの中でも更にワンランク上を行く財閥の息子達で、彼らはこの学園の王様だ。何をしたって許される。
例えばそう、口答えした気に入らない奴を、学園生徒全員でいじめさせることとか。
────俺は真っ直ぐロッカーの赤札を睨んだ。

「赤札だッ!二年の笠井竹巳に赤札が貼られたッ!」

誰かが叫びながら校舎中を走り回る。あちこちの教室から歓喜の声がした。

「笠井…それは?」
「…」

転校生の水野はこれをどう思うのだろう。F4の選んだ印の赤札、ターゲットを示すこの赤札の意味を。
────教室に帰ったら机がなかった。早速、始まったようだ。

 

 

 

「チクショ〜〜〜!」

誰も来ない非常階段、外に向かって叫んだ。俺はしょっちゅうここにきては叫んでいる。王様の耳はロバの耳!誰が聞いてたって知るもんか。
髪から水が滴ってくる。知るか、どうせ全身濡れてんだ。水を掛けるとか、ベタにもほどがあるっちゅーの。お嬢様の癖に水の入ったバケツが持てたことだけは誉めてやる。

(…〜〜〜あ〜…何で俺?水野じゃなくて俺?そりゃ俺だよな、俺だよ…)
「うるさい」
「ッ!?」

慌てて振り返る。げ、最悪…F4のひとり、辰巳良平。4人の中でも一番謎の多い男だ。文庫本片手という姿を見るに、彼の邪魔をしたらしい。

「ここは俺の場所なんだ」
「…」
「静かな場所あまりないんだよ」
「…」

すみませんとか何か言おうとしたけど言葉が出なかった。物腰は優しいけれど、こいつもF4。…敵、だ。
真剣な表情から顔を背けて、ゆっくり階段を登る。足が重い。学校をやめようかと頭によぎった。だけど続いて、俺が武蔵森に通っていることを誇りに思っている家族を思い出す。…自分たちを犠牲にしても、俺をここへ通わせてくれているのだ。こんなことぐらい…

「────そっちの方が、非常事態だな」
「え、」

俺が反応出来る前に隣を辰巳が通る。その背中は黙って階段を出ていった。

 

 

 

「どういうことだよッ、あぁ!?あいつ学校来てンじゃねぇかッ!」
「み、三上さっ…ッ!」

派手な水音が響きわたった。三上は生徒を一人プールに沈め、いらだちを隠さずに他の生徒につかみかかる。

「すっ、すみませんッ…あいつ、しぶとくて…」
「言い訳なんざ聞きたくねぇ。────いいか、ぜってぇあいつやめさせろ!」

 

 

深呼吸をひとつ、よしッ。気合いを入れてロッカーに手を伸ばす。まさか何もないはずがない。手ごたえがあってロッカーが開く。それをゆっくり引いてみた…ぼとっと何かが落ちる。

「ッ、うわ!」
「キャアッ!」

周りにいた生徒が一斉に逃げ出した。あっと言う間に俺以外誰もいなくなる。────蛇。小さいが、しかし10匹はいるだろう。固まりだったそれはじわじわと広がっていく。これやったやつ、回収出来んのか?まさか毒まで持ってないだろうけど。

「!」

その場から動けずにいると、背後から口を塞がれた。3人────

 

 

「やめっ、離せ!」
「うっせぇ、黙れ!」
「ッ!」

平手を食らって口の中を噛んだ。人気のない教室、多分理科の準備室に連れ込まれ、3人がかりで床に押さえつけられた。

「お前が悪いんだよ!」
「ッ!」

持ってきた椅子を頭の上に置かれ、その上に誰かが座る。鉄パイプの足が俺の頭を取り囲んでうかつに動けない。

「三上さん怒らせるから悪いんだよ…」
「なっ、何、する気…や、やめろッ!」
「いいからやれ」

何処からか取り出されたナイフが光り、ブレザーのボタンを飛ばした。下の方からひとつ、ふたつ。顔の傍まで迫ったナイフに恐怖がこみ上げる。乱暴にネクタイが抜き取られた。ナイフが次はシャツにかかる。

「やだッ、離せっ!」
「離してやれ」

飛び込んできた別の声。椅子に隠れて姿は俺から見えない。

「え?あっ、辰巳さん…」
「離せって」
「いや、でも…こいつこうでもしないと…」
「…」

辰巳は何も言わない。何も言わないが、その場に与えた力は強かった。しばらく戸惑っていた奴等も慌てて逃げ出していく。溜息が聞こえ、椅子がどかされた。慌てて起き上がって、思わず胸元をかき寄せる。────あいつら何を、する気だった?絶対泣きたくないのに涙が浮かんできた。

「…非常階段、掃除中で」
「……」
「折角静かな場所を見つけたと思ったのに。探すの大変なんだ」

そうだ。助けてもらった。この人に。

「…あっ…あ、」

情けないことに声が出ない。さっきの椅子に座った辰巳は、本の表紙から俺に視線を移す。

「…ありが、とう」
「…勘違いするな。ああいうの嫌いなだけなんだ」
「…」

 

 

 

 

もう本気で学校やめようか。こんなに我慢する価値のある学校じゃない。何度もそう思うのに、昼時にはそんな思いも飛んでいく。毎日俺のことを考えて、母さんが作ってくれる弁当。俺が武蔵森に受かったとき、一番喜んだのが母さんだった。

「いただきます…っと」

昨日流石に家でも平静でいられなかった俺を心配してくれたのだろう、今日の弁当は少し豪華だ。機嫌よく食べ始めると、食堂が静かになっていく。…これは、この空気は。おそるおそる顔を上げれば、隣に立つのは俺様何様三上様。えらそーにふんぞりかえってますが、おわかり?偉いのはお前じゃなくて、お前の親だぜ?

「何それ?犬の餌?」
「…」
「ったくウゼェよなぁ、自分が場違いなところにいるのにも気付かねぇでのうのうとしてるやつってよ!」
「!」

三上が弁当箱を掴む。そうかと思った瞬間に、それは床へたたきつけられた。中身が飛び散り、何人かギャラリーが笑う。
…つーか、なんつったァ?

「おい!行こうぜ、庶民の匂いがうつる」

ふと見れば、他のメンバーも降りてきている。相変わらず何を考えているかわからない辰巳と目が合った。…笑った気がした。ええい、もうどうにでもしてくれ。…さっきみたいなのはちょっと困るけど。

「────…おいそこのヘタレ」
「…あ?」

あーあ、振り向いちゃった。何?ヘタレの自覚アリっスか。

「何か吠えたか?」
「聞こえなかったなら耳鼻科行ってきやがれ、さぞかし優秀なお医者様がついてらっしゃるんでしょ?」
「あぁ?」
「…」

黙って拳を構える。小学校中学校、このおせっかいで何度怒られたことか。悪いのは大概あっちだったってのに。

「自分で稼いだこともない餓鬼が、庶民庶民とえっらそーに。オワカリ?お前ら庶民がいねぇと生活なり立たねぇくせしてよ。日本の未来だァ?高校の勉強もまともに受けてないやつなんかに誰が未来を任すかっての」
「ふざけやがって…」
「好きなだけ吠えてろッ」

隙をついて一歩前、無防備なおバカちゃんに拳を一発。ストレートが決まって、三上様は無様に尻餅をつく。

「────戦線布告だ。俺は絶対あんたから逃げない」

殴られたのが信じられないのか、まぬけな顔の三上をしっかり睨みつけた。まるで別人のように幼い表情。
ちらっと辰巳を見てみれば、今度は確かに笑っていた。

 

 

to be contenue....? 笑

 

 


ハッハッハ。やらかした。
もう書きたいとこだけ書いたので色々端折り。

051024

 

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