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「……少年、営業妨害かな?」
「あッ、ご、ごめんなさい…」

店先から動かなかった三上がびしっと姿勢を正し、花屋の店員は笑った。中学生など客に見られていないのだろう。立ち去った方がいいだろうかと迷う三上を店員は捕まえる。

「誰に?」
「え、」
「誰かにじゃないの?」
「あ…」
「彼女だ」
「……」
「なぁに?誕生日?」
「じゃ、じゃないけど、…謝りたくて」
「ふうん」
「……何がいいと、思いますか」

花がきれいだと思ったからあげようと思った。自分の陳腐さにも笑えない。いちご畑の次は花だ。
色とりどりに花の咲き乱れる店内を見回して、君の懐が分からないからなぁと店員はぼやく。

「いいと思った奴でいいよ」
「…でも、花言葉とか、あるんじゃないっすか。俺わかんねーけど」
「何?彼女気にする子?」
「…いや、どっちかっつと、花より団子」
「じゃあなんでもいいじゃない。君がいいと思った奴でさ」
「……」

じゃあその小さな花を。
のように姿勢正しいその花を。

 

*

 

わあ、と大きく口を開けて、は目を丸くして花を見つめた。財布との相談により数本だけの花束だが、店員がそれなりの包装をしてくれて花束らしく見える。
は受け取らない。花を見つめている。三上は段々居心地が悪くなってきて、やっぱりこんな真似をしなければよかったと後悔し始めていた。

「嬉しい」
「ッ……」
「すごい、お花貰ったの初めて」

わあ、とやっぱり声を出して、は白い手で花を受け取った。
自分の思い付きがよかったのかはわからない。だけど喜んでくれた。ぞくぞくっと緊張が走って、抱きしめたくなるのを必死で堪える。

「えへへ、ありがとー」
「…まぁ、こないだ、その」
「ん?」
「…怖がらせた、みたいだから、…ごめん」
「あー…違うよ、あのね、びっくりしただけ。少し、三上じゃないと思って怖かったけど、やっぱり三上は三上だった」
「……」
も今度お礼するね。自分で逃げてたくせに、自転車乗っけてもらったりしたし」
「いいよ」
「やだ」

口元を緩めて花を見て、あまりにもずっと見ているから三上の方が照れてくる。
ポケットに突っ込んでいた携帯が振動したのではっと我に返り、の部屋に来ていたことを思い出した。

、俺帰るな」
「うん。ありがとね」
「いい。…それ、誰にも言うな」
「お花?」
「そう。誰にも」
「ふうん?いいよ、秘密ね」

あまり信用は出来ないがを信じ、三上は見送られて女子寮を抜け出した。
急いでいたので乗ってきた自転車を取りに行けば、その自転車に笠井がもたれていて心底驚いて息を呑む。

「喜びました?」
「…見てたのかよ」
「なんでも先を越されちゃうな」
「退けよ」

三上を無視して笠井が自転車に跨ったので、三上はその後ろへ足をかけた。重ッ、文句を言われたって知らない。乗ってきたのは三上だ。
自転車はふらついて進みだす。笠井が何を考えているのか分からない。

「先輩 俺の気持ちは知ってますよね」
「……」
「俺もが好きです。ずっと見てきた。気付いたときには傍にいた」
「…それは」
「俺が甘かったのかな。は俺の物だって、無条件に思ってた。ねえ先輩知ってた?」

笠井が急ブレーキをかけて、バランスを崩した三上は慌てて笠井を掴んだ。痛かったのだろう、笠井は顔をしかめる。
ゆっくり振り向いて三上を見た。緊張しているのが分かる。精一杯胸を張っている。

「知ってました?俺、と結婚するんですよ」
「…は、何…」
だって知ってますよ、親が決めたことだから。反故出来ない『約束』なんです」
「…どういう意味だよ」
「それはが、話すなら。俺がしていい話じゃない」
「今のはしてもいい話か」
「だって俺は当事者ですよ」

 

あんたがもっと混乱して、冷静でなんていられなくなればいい。そうすればきっと思いつかない。
焦ってるから言い出すんだよこんなこと。余裕があれば黙って見てる。

 

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