鋼 の 糸


 

「ホント割に合わない仕事。体力ないってゆってんのに」

段ボールの上から声が降ってくる。あ、クソ、蹴りやがった。
さっき載せられたのは多分エレベーターだろう、機動音から言ってロビーのものじゃない。
乱暴な動作で上下運動。痛いから。
・・・あ、車だ。独特のドアが閉まる音。
運転席に誰か乗り込む。さっきの声の主だろう。

「あーあ、ミカミさえ見付かれば仕事何かしないのに」

ミカミ?・・・って、うちの店長?
車が動き出す。・・・ここは宵だった。駐車場を出て、・・・・・・右に曲がる。
・・・・・左・・・そう、国道に出た。
よし、分かる。
伊達に街を動き回ってない、絶対大人しく負けてやるもんか。

 

 

「三上やられた」
「は?」
「ナンバープレートのない車消えたよ。藤代に話してないのが仇になった。走っていくのを見てる」
「おいおいおいー・・・」

三上は椅子に伏せて少しの間仕事を放棄する。
いつもとは逆に辰巳が入れたコーヒーを三上のパソコンの側に置いて椅子に戻った。

「ふーざーけーんーなーよー根岸はどうした?」
「宵の店長と雑談」
「中西は」
「音信不通。藤代に一応後を追わせたけどどうだろうな・・・あんまり行くと藤代にはテリトリー外だろ」
「あ、なに、外の方行ってんの?ンなら政府の監視データ見りゃいーじゃん」
「一応繋げてるよ。今のところは何も無しだけどな」

携帯が鳴って辰巳が素早くそれに出た。三上がのそりと起きあがり、コーヒーをすする。

『辰巳さんタクビンゴ!』
「何処だ」
『道の途中にタクの携帯が落ちてて、0が潰されてます』
「お前が今居るエリアは」
『d』
「直ぐ行く」

辰巳は携帯でそのまま他へかけた。

「三上はここに居ろ」
「うわっお前が出向くの。行ってらっしゃい」

三上は呆れた表情で、自分のパソコンに向かいウィンドウを幾つか閉じる。
その間に辰巳は店を飛び出していた。

「・・・寂しい」

何でこんなにいい男なのに独り身なんだ、
三上はひとりで呟いてみる。言うだけならタダだ。

「・・・笠井が来てから初めてか、辰巳が動くの」

 

 

 

「コレなーんだ?」
「・・・・・・」

求められている答えは、注射器ー!ではなく中身のことだろう。
きらんと目の前を翻る細身の注射器。中には透明な液体。

「・・・何だろう」
「イット原液溶かした奴ー」
「!」
「ホントはお前をここにおいてくるだけでいいんだけどねー、お前途中で余計なコトしたじゃん、手首の関節外してまでしてさ」
「・・・・・・」

ええまぁそりゃ確かに。
車の窓を割ったのは流石にやりすぎたと思う。でも手に力はいらないから窓開けられなかったし。
窓から落とした携帯がある程度無事だといいんだけど。てか誰か見付けてくれるかな・・・
無法地帯の街からも離れているけど政府の監視下にもない、エリア0。俺にはそこまでしか分からなかった。
ホントは自分一人で華々しく帰還といきたかったけどどう考えても無理だったし。
うん、やっぱり意地を張らないで携帯に発信器仕込んで貰うべきだった。次からそうして貰おう。

「注射好き?」
「・・・好きじゃないよ」
「ふうん。まぁ大丈夫だよ、俺結構慣れてるからね」

そうして男は腕を取る。
白い手が俺の腕を掴んでいる。もう片手に注射器。
死んだように白い男。髪だけが赤くて異様だった。
逃げたい。
だけど手首に体重を掛けられてそれが出来ない。微かに走る痛み。
・・・イット原液って、まさか死んだりしないだろうか。
ヤベ、まずった?

「・・・あぁ、大丈夫だよ。アレルギー反応出ない限り死なないから」
「・・・へっ・・・出たらどうしよう」

出るんだよー、出るんだよ俺。牛乳。
怖いことを言われた。
男は立ち上がって、笑いながら部屋を出ていく。

「ふーざーけー。・・・・・・・・・」

あ。
アレルギー反応は出ないみたいだ。けど。

「・・・イット原液ってか・・・」

泣きそう。

 

 

 

「あっれー辰巳?」
「・・・中西?」
「いやー今から連絡しようも思ったんだけど必要なかったみたいだねー」
「どうしたんだ、携帯」
「俺の身代わりに逝ってしまわれた」

アーメン、と無宗教家は十字を切る。
辰巳はそれを無視してまだ走り出した。中西が慌てて追いかける。

「えー、えー、どうしたのって聞いてよー」
「やだ」
「あのねーっカオに会ったよ。例のスーツケース野郎がそうだった」
「な・・・ホントに少年が?精々幹部かと・・・」
「マジマジ。会えば分かる、ぜってー分か」

唐突に言葉が途切れる。速度の遅れた中西を振り返った。

「舌噛んだ」
「・・・・・・」
「笠井はこの先の無人工場。一緒にいるのは適当に雇った男、真華教とは無関係。
 あぁ、でも売人はやってたって言ってたかな。・・・あー、それで急いでたんだった」
「何」
「イットの原液ってヤバイらしいよ〜」
「・・・・・・」
「あっ早!」

足を早めた辰巳を中西が慌てて追った。

 

「・・・あー・・・しまった」

走ってくる人影を見て設楽は腕を組んで首を傾げる。
辺りをぐるりと見回すが、そこにあるのは今は使われていない無人の工場。何故か真っ白に綺麗にペンキが塗られていて不気味だ。
辺りのアスファルトも白く塗られており、足跡が幾重にも重なって薄く汚れている。

「逃げ道もないなぁ」

溜息を吐きながら設楽は工場に戻った。
奥の方の個室に顔を出す。部屋の端で笠井が寝転がっている。

「・・・あれ、つまんないの。何もしてない」
「・・・するかっつの」
「手伝ったげようか?」
「いらない!」
「はいはーい。・・・あ、本気でヤバイや」

工場のドアが開けられた。
設楽は諦め、笠井の居る部屋に鍵を掛ける。出迎えるように入り口の方へ向かった。

「ハロー君が設楽君?」
「あ、もしかして俺はめられたぁ?」
「はめられたんじゃなーい?」

中西が笑ってどんどん中に入ってきた。
素早く設楽を捕まえて壁に押しつける。設楽も逃げる気はない、逃げられないと分かったからだ。

「笠井は?」
「さぁ、何処だと思う?」
「・・・俺ちょっと焦ってんのよ、病院行かなきゃいけないしねー」
「あ」

中西の手が設楽の腰を滑る。
ポケットを探り、出てくるのは注射器。一緒に新しい注射針と液体の入った小瓶も出てくる。

「あらいいものが」
「えーっ、俺イタイの嫌いなんだけどなー」
「あら大丈夫大丈夫」

設楽に体重を掛けて中西は注射器をセットした。そのまま腕を捕まえる。

「あっ、ヤダ」
「ダメでーす」

手早く注射を打って、中西は手を離す。設楽が少し逃げかけるが、少し離れて動きを止めた。

「笠井は?」
「・・・言わない。むかつくから」
「あらそー」
「っ・・・ん」

再び中西が設楽を捕まえた。設楽の顔が歪む。

「・・・即効性もいいとこだね」
「・・・・・・」

中西は設楽のポケットを再び探った。
逃げようとする意志に反して体の力は抜け、重い設楽の体を支えて鍵を見付ける。

「コレ?」
「・・・・・・・」

設楽を担ぎ上げ、悲鳴も聞かないフリをして入り口に歩いていく。

「やだっ、さわんな!」
「はい煩いー。辰巳ーコレあげる」
「は?」
「鍵ー、多分あの奥の部屋。そして俺はあの車を借りるので歩いて帰ってねv尤も笠井が帰れる状態かどうかは分かんないけど」

中西のセリフを理解出来ないまま、辰巳は取り敢えず中へ入る。
奥の部屋の鍵を開けると、笠井が壁により掛かって立っていた。辰巳を見てぎょっとした表情を見せる。

「笠井!」
「た、辰巳さん・・・」
「よかった、無事」
「近よんないで下さいッ!」
「なっ・・・」

反射的に笠井を捕まえようとする。
すかさず飛んでくる回し蹴り、本能で感じてそれを受け止めた。

「笠井?」
「ちょ、あの・・・・・・お、俺、イット打たれて・・・」
「・・・・・・・・・」

辰巳は中西の言葉を理解する。
笠井の脚をゆっくり離し、今度は蹴られないよう慎重に手を取った。熱い手が逃げようとする。
手首の痛みに笠井が顔をしかめた。それに気付いた辰巳は優しく触れる。

「ぁ・・・」
「初めて会ったときは綺麗に蹴り食らったっけ?」
「・・・あの時の集中力と比べないでくれますか。・・・辰巳さんの所為ですよ」
「帰ったら師匠のトコに泊まり込みだな」
「う・・・・・・」
「まぁでも、無事で良かった」
「・・・無事と言えるならですけどね・・・」
「・・・・・・帰れるか?」
「無理、です」

 

 

 

 

 

「お帰り・・・」
「・・・ただいまです」
「途中経過の報告もなしとはな」
「・・・・・・」

三上は帰ってきた辰巳と笠井をじっと見つめた。
じっと、見つめる。
辰巳が出て言ってからもうかなりの時間が経っていた。

「・・・三上、俺今夜上で寝るから」
「好きにしてくれ・・・」
「あ、あの・・・すいません店長、手首直してくれますか」
「脱臼!?お前らどんなプレイしたんだよ!」
「してませんー!!」

 

 

 

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ご・・・ごめんなさ・・・ごほ。
この三上の空白の時間にカズさんが来てます。
つじつま合わせ(オイ)はまた後日。
あー、いいのかなーこんなに伏線張ってみて・・・

考えてるときはもうちょっとスッキリしてたんですけどね。うん。

 

 

 

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