錠 前 の 罠


 

「・・・お邪魔しまーす」
「よぉ中西。・・・どうした?」
「ちょっと今日は逃亡者なの」
「ふーん。用は?」
「辰巳」

カウンターの三上に手を振って、中西は店の角に脚を進める。
辰巳が読んでいた本から顔を上げた。

「どうも」
「どうした?」
「ちょっと」
「そういや真華教の方はどうなったんだ?モンタージュとか作ったなら」
「あー、何も」
「・・・何もって、お前顔見たんだろ?」
「うん、見た。もう2度と会いたくない」
「サクラからの依頼じゃないのか」
「依頼受けたのは渋沢」

もう何度か聞かれたといだったんだろうか。
中西はうんざりした表情で辰巳の前の席に腰を下ろす。

「あんね、俺あいつと取引したんだ」
「取引」
「そう。あいつのことを何も話さない代わりに、笠井のことを聞いたわけ。よってお前の所為」
「ええっ」

コーヒーを持ってきた笠井がいきなり指を差されて動転する。

「・・・約束なんて守らないお前が」
「悪かったわね。もーやだー、あいつ怖いー、絶対ヤダ。何されても喋んない」
「・・・・・・」

辰巳と笠井は目を合わせて首を傾げる。
笠井は中西のことがまだよく分からないが、それでもこういう男ではないというのは分かっていた。

「・・・あ、そういえばお前、真華教のリーダーに雇われてた男どうしたんだ?」
「う・・・・・・だからそいつから逃げてんだってば・・・」

 

「あっミカミ!」
「・・・設楽ッ!?」

入ってきた客を見て三上が表情を変えた。
一瞬視線を出入口に送る。しかし丁度渋沢が入ってきたところで、使えそうにない。三上は諦めて久しぶり、と挨拶をする。

「うわーっミカミだ〜!俺すっごい探したんだよ!」
「あ・・・あぁ、悪かったな」
「もしかしてずっとここに居た?捕まって学校に戻ったのかと思ってた!」
「ンなヘマするかよ」
「あの・・・どうぞ」

立ったままの客に見兼ねて笠井がカウンターの椅子を引く。

「あ、ううんいい。三上とかどうでもいいから」
「はぁ・・・」
「なっかーv」

知人(?)にどうでもいいと言われ流石に三上は落ち込んだようで大人しくなる。
逆に客の方がテンションを上げ、辰巳の前に座る中西に飛びついた。中西が膨れっ面でそれを無視する。

「・・・ちょっと三上店長!何でこないだ俺を拉致った人と知り合いなんですか!」
「は?設楽も絡んでたのか?」
「俺雇われてただけだもん。誰かと思ったらこの間の奴じゃん」
「いいから設楽離して」
「え〜」

えーじゃない!子供を叱るような口調で中西は言い、設楽の手を振り払う。
状況の読めない笠井はクエスチョンを含めた視線をあちこちに巡らせた。

「渋沢、なんでこいつ連れてくんのさ」
「邪魔だ。お前責任持って世話をしろ」
「えぇ〜!」

中西が珍しくもうんざりした表情を見せ、設楽は面白がって笑う。

「じゃあ俺は帰る」
「ヒドッ!俺のこと玩具にした癖にいざとなったら捨てるんだッ!」
「誰がいつ玩具にしたんだ」

渋沢は溜息を吐いて中西を一瞥し、無情にも店を出ていってしまう。

「あの・・・誰か俺に説明して下さい」
「この間の騒ぎのどさくさに中西がこいつに手を出したらそのまま懐かれたってだけだよ」

辰巳は苦笑しながら笠井に言った。
何だか嫌味に聞こえる、
中西が辰巳を睨む。

「だって中西スゴいんだよー」
「ハイハイ余計なことは言わない」
「じゃあ店長と彼の関係は?」
「・・・・」

笠井と目が合って三上は反射的に顔を反らした。
不審がって笠井はカウンターに入って三上を追い詰める。

「そういやこの間彼がミカミが見つかればどうなんて言ってたけど、やっぱり店長のことなんですね」
「・・・・」
「その顔はやましいことがある」
「お前は俺の恋人かッ」
「店員です。隠し事はナシでいきましょう」
「・・・・」

笠井が三上にどんどん近付いて行くので辰巳内心穏やかではない。
設楽は自分から説明する気はないらしく、中西にじゃれついては引き剥がされている。

「・・・昔・・・同じとこにいたんだよ」
「トコ?」
「警察学校」
「・・・警察?」
「そういう顔するから言いたくなかったんだ」
「えーっ、だって警察学校って都市ですよ」
「俺都市出だし」
「えー初耳ー」

笠井が不満げに店長を叩く。三上は顔をしかめただけで特に止めようとはしない。

「何でー、都市出だったら俺会ってたかもしれないのに」
「は?」
「あ、何でも・・・」

笠井は口を濁して三上から離れた。カウンターを出て、普段の仕事に戻っていく。

「三上知り合いなら設楽引き取ってくんない?」
「やだよ、そいつ世話面倒だから売ったのに」
「売った?」
「あ・・・」

中西は立ち上がって動揺する三上の前に移動する。設楽がそれにくっついて動いた。

「説明」
「あ゛〜・・・ややこしーをだけどな・・・警察学校っつっても俺3年までしか行ってねぇんだよ。
 学校やめたとき出てくるついでにマザーコンピューターハックして」
「おい」
「そしたら捕まってたこいつが出てきて、追われかけたから仕方なく一緒逃げて、でもそいつ箱入りだから」
「だからアルビノだってゆってんじゃん」

設楽が初めて不満げに口を挟む。確かに全体的に色素は薄い。

「ただのアルビノよりタチ悪いくせに。んで学校やめて金もねぇし、こいつの世話する余裕なんかなかったから売ったんだよ。ちゃんと愛玩用じゃなくて観賞用にしてもらえるように」
「いいのか悪いのか」
「だってこいつ暑くても寒くてもすぐダウンすんだぞ、生死に関わる容体だしよ。いちいち空調チェックしてられるか」
「・・・設楽、そういう命に関わることは早く言って」
「だって言わなくても中西の部屋常に丁度いいんだもん」
「まぁうちは空調完璧だけど機械は過信しちゃいけないんだよ」
「中西優しーいv」
「・・・こいつと会話すると調子狂う」
「言葉こんだけ覚えりゃ立派だ。あ、そうだ」

ポン、と諭すように三上は中西の肩に手を置いた。

「こいつ妊娠しないように気をつけろよ」
「はぁ?」

黙って話を聞いていた笠井も怪訝そうな顔をする。
辰巳の方を見てみるが仕事がきたらしく忙しそうだ。笠井はその傍に待機したまま聞き耳を立てる。

「何で、男じゃん」
「政府が裏で何やってっか知ってるか?」
「・・・内容までは知らないけど、人体実験」
「こいつが被験体。実験は」
「分かった、マリア計画」

三上は返事をせずに中西を離れる。肯定だろう。
まだ彼らが幼いときに流行った伝染病は何故か極端に女性がかかりやすかった。
その影響で記録する過去で初めて女の人口が男を下回った。
人間は他の生き物のように、一度に複数産むことは少ない。
人口減少に焦った政府打ち出した計画、それがマリア計画。早い話が男に子供を産ませようと言う奴だ。
クローン技術などは他国に劣らないが、まだ社会に出せる程のものは作れない。
しかしその計画は殆ど政府をからかう噂でしかなかった。

「げー・・・マジで?」
「母コンの奥に大事そうに眠ってた情報だし、何より経験者は語るだろ」

三上は設楽を指差した。その後ろで設楽が飄々としている。

「店長、外行ってきます!」
「おー、帰りに豆買ってこい」
「オ・レ・は仕事で出るんです!」
「よろしく」
「・・・・」

笠井が渋々店を出ていく。
三上と話しているより出た方が早いと判断したんだろう。

「・・・まぁそんなワケだ。因みに設楽は事故で死んだことになってっから情報屋免許は取れねーから。体力もあんまねぇけど頭はそこそこいけるし、下っぱにでも使えば?」
「え〜・・・なんで俺がガキの世話なんか」
「いいじゃん、そいつイイだろ」
「・・・・」

三上の指につられて中西は設楽を見る。設楽が調子に乗って笑ってみたり。

「・・・生活費ぐらいはちゃんと自分で稼いで貰うからね」
「やたっ中西大好き!」
「ぎゃ」

設楽が飛び付いた勢いで中西がよろけて椅子から落ちかけた。
三上がからかってそれを笑う。

「さっきから何騒いでー・・・」

店の奥から出てきた功刀が設楽を見て固まる。フリーズ?と茶化しに三上が傍へ寄った。

「・・・三上、俺殴れ」

スパンッ

迷う間もなく三上が功刀の頬を張る。
不意をつかれた功刀が若干よろけた。思いがけない行動に辰巳も中西も黙り込む。

「・・・なんだよ、文句あるか」
「いや・・・別に・・・」

気を取り直した功刀が頬を押さえて設楽に近寄った。じっと顔を覗きこむ。

「どうした、一目惚れか?」
「ア・・・アホッ、なしてこいつがここに居ると!?」
「は?」
「オイお前、登録番号は」
「・・・三上、何こいつ」
「うちの店員」
「・・・M09」
「うわっビンゴ・・・」
「・・・ちょっと待て、Mって言ったら・・・」

辰巳が咄嗟に立ち上がった。
体に似合わぬ大きな溜息を落とし、功刀はカウンターに寄り掛かる。

「あぁ・・・シードキー持ちったい」
「そんな・・・」

深刻そうな辰巳の表情に当の設楽が首を傾げている。

「ちょっと待ってよ、こんなひょろっこいすぐ死にそうな奴が?」
「政府の意図はわからないがMで登録されてるなら確かだな。おまけに番号は2ケタだろ」
「あー、そうか」

中西は設楽を引き剥がして座らせる。
何となく自分か悪いような気がしていた設楽は大人しくそれに従った。気付いた中西は優しく笑って頭を撫でてやる。

「設楽は何も悪くないよ」
「・・・うん」
「例えクソ面倒臭いことになりそうでも設楽は悪くないからね」
「・・・・」

「あー・・・起き抜けにとんでもないことになった・・・」
「つかお前仕事中に寝るな!」

 

 

 


わはは。
中設!中設!ビバ!
わたいの脳味噌頑張ってますよ。
カズさんが出てこないのはカズさん語が使えないからです(元も子も・・・)

えー、それで。
真華教は?(・・・・)

 

 

 

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