「じゃあ笠井君、夏休みにね」

ええ、夏休みに。
夏休み中に貴方の笑顔を俺の物にして見せます。


s u m m e r g a m e


「夏だね!」
「7月だからな」
「あっついね!」
「夏だからな」
「夏休みだ!」
「もうすぐだな」
「恋の季節だーーーっ!!」
「タク補習じゃん」

どこからか取り出したハンマーを敢えてアッパー角度で藤代に食らわせ、笠井は不満げに腕を組む。
因みに後半時点で手にハンマーは残っていない。
運悪くそれを見てしまった通行人はその場で足を止め、少しよろけただけの藤代と笠井に怯えた。

「いきなり何すんだよー、いったいなー」
「わかってないなー、補習はわざと受けるの!」
「つーかタク出来ないだけじゃん。数学だっけ?」
「そう、数学!!」

笠井のガッツポーズで藤代はやっと気が付いた。
数学教師は今年入ってきた新任教師で、男子棟の全校生徒の憧れの的だった。
要は、男の園に迷い込んだモンシロチョウ。
ついでに笠井の想い人。

「それで俺は数学の補習を受けるほかの生徒をリサーチしました」
「あー、それで昨日の夜居なかったんだ」
「うん、ちょっと学校にね」
「ふーん、で、どうだったの?」
「俺は勝った!」
「つまり他は敵じゃなかったんだ」
「絶対俺!確実に俺!寧ろ俺!」
「ふーん、頑張ってねー」

今日の晩飯何かなー。
夕日に向かいガッツポーズを決める笠井を無視して、藤代は夕食の待つ松葉寮へと足を進めた。

 

 

「笠井はどうした?」
「数学力を上げるべく近藤先輩を監禁してます」
「・・・・・・」

渋沢が笠井の部屋だろうと思われる辺りを見上げた。
さっきの叫び声は近藤だったか。
しばらく考えて、他人事なのでどうでも良いと思ったのか渋沢はそのままテーブルについた。

「何?笠井まだ松岡センセーなの?」
「らしいっスよ」

夕食を食べながら三上は首を傾げる。

「あいつこの間夏服万歳!とかって屋上で双眼鏡構えてたぞ、女子棟に」
「それは不特定多数なんで。松岡先生結構露度低いし」
「ふーん・・・」
「ていうか笠井ほど外見と中身のギャップある人俺初めて見たなー」

中西が苦笑しながら言う隣で根岸がこくこくと首を縦に振った。
男子棟、ほぼ男子校状態のこの学園で、うっかりすると危ない道に連れ込まれそうな容姿をしている笠井。
実際その手の輩を返り討ちにしているのを藤代は何度か見ている。

「夏は恋の季節らしいっスよ」
「笠井年中頭の中ピンク色じゃん」
「つーか春も言ってたよなそれ」
「あぁ、春は三上先輩の彼女狙いだったんスよねー」

ぶっと三上がお茶を吹き出す。
三上以外は知ってたようで、渋沢までもが頷いた。

「あの時は悪かった」
「な、何だよ・・・まさか渋沢お前・・・」
「お前に悪気はなかったんだ・・・だけど俺はお前の秘蔵写真の存在に嘘がつけなくて・・・」
「お、お前の所為か写真がなくなってたのは!」
「ていうか三上写真なんか持ってたわけ?」
「まぁ結局タクの負けでしたけどねー」
「ホント。笠井ってさー、結局」

報われないんだよねぇ。

 

 

 

「大人って汚い・・・」
「・・・タク・・・どうした・・・」

ベッドの上でめそりと哀愁漂わせ、笠井は正座で壁に向かいホロリと涙をこぼす。
しばらく無視をしていた藤代だが、軽く20回は越えたそのセリフに諦めて声をかけた。
今日は補習の1日目だったはずだ。てっきり浮かれ顔で戻ってくると思ったのだが。

「・・・松岡先生が」
「うん」
「・・・・・・急に」
「うん」
「・・・・・・・・・産休だって」
「ふーん」
「・・・・・・・・・」
「ちょっとっ、悪いのは俺じゃないだろ!!」

今日を強制的に13日の金曜日にする気だろうか。
ベッドの上にゆらりと立ち上がった笠井が恐い。

「なーんーでーーーっ!!先生彼氏居ないってゆってたのにーーー!!」
「彼氏は居ないけど結婚してる、か。先生なかなかやるねー」
「大人って汚いー!!俺の純情を返せーーー!!」
(女の子泣きそう・・・)

頭を抱えて空に叫ぶ笠井竹巳を笠井(外面)ファンの女の子に見せてやりたい。
客観的にルームメイトを眺め、藤代は目をゲーム画面に戻す。

「と言うわけで俺はもう年上に恋はしない!」
「はいはい」
「と言うわけで俺は夏休みの生徒会役員会議に賭ける!」
「・・・タク・・・お前まさかその為に生徒会・・・」
「当然」

涙は何処へ飛んだのか。 誇らしげにピースを向ける笠井に藤代は呆れ顔。
年に1度の文化祭、色々と問題が出てくるためいっそのこと、と言うことで普段は全く関わりのない女子棟との共同作業が生じてくる。
とは言え基本は全く別で、唯一の生徒会役員のみが隣の棟の生徒会役員と接触することが出来るのだ。

「俺はこの夏絶対勝つ!」
「あーはいはい頑張ってね」

あっついなー。
藤代はゲームを進めた。

「あーあ、松岡センセ〜・・・・・・折角消したのに・・・」
「何をッ!?」

 

 


笠井がスキです。本気さ☆
だって笠井はこういう性格だって有り得たと思うのですよ。うっふふ

030714

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送