勉強なんて大嫌い。
したいことをして、したくないことをしないだけなのに、それが地獄絵図につながるってんだから世の中間違ってる。


知 ら ぬ 存 ぜ ぬ 。


「意味プー」
「…やる気ないな」
「ねぇよ」

ハッ。
鼻で笑ったあたしに呆れて木田は溜息を吐いた。椅子に足を上げるなと静かに言われてあえてあぐらをかく。

「…可愛くない」
「可愛くしたら彼女にしてくれる?」
「しない」

テーブルに広げられた問題集。数字をにらみつけてもそれは動き出さない。

「いいよもう、あたし高校行かないもん」
「行かないでどうする」
「ここでバイトするv」
「いらない」
「あんたが決めるわけじゃないじゃーん」

ここは木田の家というか喫茶店、店長は彼のお母上だ。
口をとがらせてブーイングするとあたしのケーキからいちごがひとつ空を飛ぶ。

「あぁっ!食べた!」
「シャーペン離すたびに減らす」
「……サド」
「因みにこれは今日ラストのケーキ」
「木田のアホー変態ー」
「だったら進める」

ほら、とシャーペンを握らされて。
セクハラだ。厚い手。

「───きーてよ、こないだの三者面談中に親父と喧嘩してさ」
「…」
「あいつあたしが何やってたか知らなかったんだって、アホくさ。まぁ口止めしてたけどさ、停学とかなってたのに気付いてねーのかよって感じ」
「高校は?」
「あたしの内申で武蔵森なんか行けるわけないじゃん、つかどこも行けねーって。木田は?」
「すぐそこ」
「公立じゃん、一緒に若女行こー」
「俺に女子校行けってか」
「アハハ行ける行ける」
「口より手」
「…ふんだ、意地悪」

一気に現実に引き戻された。
あぁ可哀想なケーキ、極悪人木田圭介に人質にされてしまって。ごめんなさいねあたしの頭が悪いばっかりに。

「もうやだ、数学なんか日常生活で使わねーし」
「日常で生かすためじゃなく理論的に物事を考える力をつけるための数学だ」
「ばか」
「…」
「じゃあアレだ、バイトじゃなくていいから木田のとこに嫁入り」
「俺が高校卒業するまでどうするんだ」
「卒業したら結婚?」
「しない」
「つめたーい」

あぐらをやめて正面の木田を机の下で蹴ってやる。
折角おしゃれーな喫茶店(木田んちだけど)でデート風なのに、あたしは数学とお見合いなんてあり得ない。煙草もねぇし。

コンコン、
ふっと外を見ると窓の外に女の子。噂をすれば武蔵森の制服だ。
木田を見て、入るね、みたいなジェスチャーをする。木田は驚いた表情で彼女を目で追った。
カランとベルを鳴らして入ってきた彼女は真っ直ぐ木田のところまでくる。

「圭介くん久しぶり、」
「アキ…久しぶり…なんだよ、帰ってくるなら電話ぐらいくれればいいだろ」
「いやおばさんには電話したんだけどな。ごめんね、デート?」
「いや」
「そう?おばさんいる?」
「いるはずだけど、呼んでくる」
「うん」

待ってて、あたしではなく彼女に言って、木田は店の奥に行ってしまう。
丁度いい、ケーキを奪還。鬼の居ぬ間に食ってやる。即否定しやがって。
クウンと足元で鳴いたお婆ちゃん犬のモカを見つけ、彼女はしゃがんでその頭を撫でた。あ、モカ尻尾振ってやんの。あたしはシカトするくせに。

「あっ…それ武蔵森の過去問?」
「…ハァ」

何故か木田の私物だ。受けないってゆってんのに強引に貸してくれたやつ。つうか誰こいつ。

「そっか〜圭介くん森受ける気になったんだ?」
「…いや、そこの公立行くって言って、ました」

いまいち彼女の年がわからんけどとりあえず敬語にしておく。
確か中等部と高等部は微妙に制服が違ったはずだけどどっちか分からない。

「なんだ…折角一緒に学校通えると思ったのに」

残念ねぇと彼女は犬を撫で回す。
アキちゃんいらっしゃい、奥から木田のお母様がやってきた。相変わらず嘘みたいな若さだ。木田の方が年上みたい。

「あっお久しぶりです!」
「電話のことでしょ、アキちゃんなら歓迎するわ。あっちでちょっと話しましょうか」

はぁい、とどうもお母様も知り合いらしい彼女は、アリスみたいなお母様と連れだって奥へ。
木田が疲れた様子で椅子に戻ってきた。あたしがケーキを食べてるのを見て顔をしかめる。
一口、フォークを奪われて木田がケーキを一口。つかテメェの一口はでけぇんだよ。そして間接ちゅーなんだからためらうとか恥じるとかしろ。

「…あの女だれ」
「幼なじみ」
「何の用?」
「…ここでバイトするらしい」
「…ハァ?武蔵森とかでバイト可能なわけ?」
「…専門学校志望なんだ。母さんが昔生徒会長やってたし、勉強とか何とか言って強引に許可とったんじゃないか?」
「…ハイ?」
「バイトって言っても殆ど修行みたいなもんだし」
「いやそうでなくて」
「…言わなかったか?母さん武蔵森の卒業生だぞ」
「…そうなの?そういや木田って高校行かないって言ってなかった?」
「…だから揉めた。武蔵森入って欲しかったらしくて」
「ハァ…入ってあげればいいじゃん」
「やだよ、寮だろあそこ」
「圭ちゃーんお母様にコーヒー入れて。ケーキもお任せで」
「…今から?」
「時間かかってもいいから」
「…」

もう一口ケーキを奪ってから木田は席を立つ。忙しいな人のことほったらかして…!しかしケーキの似合わない男。
ふと見ると、お母様の客人は木田を目で追っている。それってどういう意味?

「…」

数学のテキストを閉じてケーキをさっさと食べてしまう。そのまま席を立つと木田が顔を出した。

?」
「帰る!」
「おい、」

コーヒーのいい匂いが店内を満たし始めていた。テキストやらなんやらは木田のだからほったらかしてドアに向かう。
床に伏せたモカは側を歩くあたしを気にも止めない。

!」
「じゃあまた明日!」

挨拶もそこそこに店を出た。
そもそもあたしは木田が好きなのか?くだらない問いに捕らわれた。

もし武蔵森に行くことになったらあの人が先輩になるのか。
…こりゃ、もう、適当に万引きでもして捕まっとこうか。そしたら進学なんていい加減無理になるだろう。
…だけどそんなのすることはない。木田が嫌いだって知ってるから。

あーあ、明日とか言ったけど明日休みじゃん。また来ようか、真面目に客で。
明日こそ、ほんとに好きだって知ってもらえればいいのに。

 

 


・・・辰中?いやいや錯覚ですよ。
いつから引っ張ってるのこのネタ。

041113

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