歯 医 者


「ただいまー」
「・・・・」
「何その顔」
「普通に他人の部屋に入ってくるな」
「いいじゃん俺と辰巳の仲でしょ」
「・・・今日は安眠できると思ったのに・・・部屋帰ったんじゃなかったのか」

辰巳が溜息を吐いて教科書を閉じた。
最近安眠してない気がする。それもひとえにベッドが狭い所為で、想像されてるようなことは何もない。

「残念でしたー歯磨きに行っただけ」
「・・・毎回思うけどお前歯磨く時間長くないか?」
「そう?みんなそれ言うのよ」

中西はベッドに腰を掛け手足を組みその上に肘をついた。その上に顎を載せて聞き飽きたセリフに顔をしかめる。
みんなに言われもするだろう。歯を磨きながらうろついて色んな所に出没したり、洗濯機をセットしたりしているのだ。

「だってさぁ、俺歯医者って絶対行きたくないのよ」
「・・・・」
「小学生の時1回行ってからもう2度と行かないと誓ったね」
「・・・・」

辰巳が笑った気配に中西は顔を上げた。
口元を押さえて笑いを堪える辰巳を睨み付ける。

「別に痛いから嫌とかじゃないからねっ、あの体勢が許せないの!」
「ふうん」
「言っとくけど俺虫歯出来たことないからね、昔行ったのだって乳歯抜きに行っただけだから!何が悲しくて他人に口の中覗き込まれなくちゃならないわけ?無防備な姿晒して見下されてさ!」
「・・・そんな理由か」
「・・・何よ」
「いや」
「じゃあ笑うなッ」

今にも笑い出しそうな辰巳に枕を投げつける。それを簡単にキャッチして辰巳は笑い出した。
中西が不機嫌な顔で立ち上がり、枕を奪ってベッドに潜り込む。

「おい」
「オヤスミッ」
「俺が寝る場所開けろ」
「知らないッ」

布団無視の背中に辰巳は溜息をひとつ。
近付いていって布団を引き剥がし、中西を壁側に押しやった。

「お前が入ったら狭いでしょー」
「・・それは俺のセリフだ・・・」

じゃあ部屋に帰ってくれ。辰巳は嘆く。
振り返った中西が布団を取り返して体に巻き付けた。

「・・・なんか」
「何よ」
「・・・いや、怒るからいい」
「何ッ」
「・・・・」

いや既に怒っている。
取り敢えず布団を取り返そうと無理矢理引っ張って奪還し、体を起こしてベッドにあぐらをかいた中西は枕だけは抱きしめる。

「・・・面白いな」
「面白くないッ」
「ちっちゃい子みたいだ」
「ふざけんな」

再び枕が投げられる。
キャッチした可哀想な枕をぽんぽんと叩き、軽く投げ返した。

「じゃあ俺歯医者になろうかな」
「え」

 

 


中西アンソロのボツ。
お題を作ったとき初めから「歯医者」のつもりだったけど変換したときに「敗者」が出た。
しまった、そっちの方がサッカー少年っぽい・・・

040430

 

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