「・・・・・・」
「中西?」

廊下で硬直した中西が数歩後退してくる。
何事かと顔をしかめていると三上の所まで下がってきた中西はがしりとその腕を捕まえて。

「何ですか」
「足が百本」
「ねぇよ」

廊下で蠢くムカデの姿を見つけ、三上は中西の挙動に納得がいった。
中西に悲鳴を上げさせようと思えばゴムの虫でも投げつければ一瞬で結果が出る、但しその代償に命を亡くすが。

「うわーまたでけぇな」
「あれどうにかして!」
「しらねェよ!俺風呂行くんだから邪魔すんな!」
「俺が部屋に戻れないでしょー!」
「しらねぇっつってんだよ!」
「こっち来たし!」
「あーも〜〜・・・」

三上は面倒臭そうに中西の手を振り払い、ムカデに近付き間髪置かず踏みつける。
中西が喉の奥で悲鳴を殺した。スリッパを履いているとは言えそんなことが出来るのは三上ぐらいだ。

「火箸もってこい火箸」
「何処?」
「しらねェよこれより前にムカデが発生した場所付近だろ」
「ちゅーか三上に命令されるとかムカツク」
「お前のスリッパん中にこれ突っ込むぞ!」

辰巳が呆れた表情で近寄ってきた。既にムカデ処理用の火箸を手にしているのを見ると声が聞こえたんだろう。
本来ボランティア清掃などの際に使われる物だがこの季節は専らムカデ用だ。

「辰巳ー!」
「あっバカ、そこで辰巳捕まえてんなよそれ寄越せ!足の下で動いて気持ち悪ィんだからよ!」
「踏むなよ・・・」
「いいから火箸持ってこい!」
「辰巳行っちゃやだーv」
「ざけんな!」

三上の叫び声に笠井が遠巻きにそれをみていた。
・・・自分の視力の良さを、恨む。三上のスリッパの下から何かが這い出ようと藻掻いていた。

「・・・三上センパーイ」
「あ?笠井?」
「そのスリッパで部屋入ってきたら追い出しますからね」
「な・・・潰してねェよ!」
「でも嫌ですよ!気持ち悪い!」
「女かよお前ら!いいから辰巳それ持ってこい!」
「・・・投げていいか」
「ざけんなッ死ね!あーもういいっ風呂行くッ」

三上が歩き出してムカデが活力を取り戻した。笠井がのどの奥で声を殺してすかさず逃げていく。

「っ・・・辰巳ッ」
「・・・俺も嫌なんだけどな・・・」

カチカチ、と火箸を鳴らしてどっしり溜息。
廊下の向こうから三上の猫が足音軽く歩いてきた。最近買った首輪の鈴が揺れ、その音に三上が振り返る。
お帰りー、笠井にも言わないような声で三上が猫に呼びかけるが、彼は三上まで辿り着かず途中の障害物に意識を移した。
・・・廊下の中央で蠢く、あれに。
三上が手から着替えを落とし、すぐに足を戻してあ、とか言ってる辰巳の頭を殴りつけて火箸を奪う。手を出そうとする猫を足で退けてムカデを火箸で挟んだ。

「あっぶねー・・・お前これはダメ、カマドウマぐらいならともかくムカデはあぶねェよ」
「つーかッ、三上 辰巳殴った!」
「・・・・」
「あっ嘘ッそれで近付くな!」

ムカデを挟んだままの火箸をつきだして三上は中西の方へ歩いていく。・・・その先でムカデは逃げだそうと必死だ。
何だかんだ言った中西が辰巳を盾に、そして逃げ出していく。

「はっ、ムカデが何だっつーの」
「いや・・・流石にムカデは・・・」
「お前1匹飼えば?中西避けにいいかもよ」
「遠慮する・・・」

猫がムカデをしきりに気にするので、三上は服を拾って廊下を離れていく。

「・・・三上、それっていつもどうやって処分してるんだ?」
「・・・・・・間宮の部屋」
「・・・・・・」

聞かなきゃよかった。

 

 


大分前に書いてて忘れてた。
ムカデ踏んづけたのは爺ちゃんです(それどころか擦りつけた)
三上は田舎っ子なので。中西は箱入りなので。

040713

 

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