日 直


(あ)
(笠井の日)
(…アホか)

恥ずかしくなったのをごまかすように三上は黒板に書かれた6の字を消した。
それからきっちり黒板を消して丁寧に日付を書き込む。6日。

 

 

(…ろく)

深くはないけれどそれは特別な気がする。

(…10には劣るけどな)
「失礼しましたー」
(あ)

笠井。
返却されたノートの束を抱きかかえた三上は振り返らずに思う。
あ、三上先輩、なんて声がしてからも追いつかれるのを待った。

「ホラ三上先輩」
(…ホラ笠井)
「やっぱり三上先輩って歩き方で分かる」
「…何それ」
「背筋がピンと伸びてて、見てて気持ちいい」
「…ふーん」
「あ、もしかして日直ですか?俺もですよ」
「…おぉ」

笠井が掲げたのは日直日誌。何となく妙な偶然だ。

「朝取りに行くの忘れてて明日もなんですよね。これ書くことなくて嫌いなのに」
「そりゃお前が悪い。ついでだお前半分持て」
「えー」

ほらと押しつけると渋々半分ほど持ち上げた。三上だって本気じゃないのだから適当に逃げればいいのにと思う。

「あーもーついてないなぁ、朝から当たってばっかりだし」
「当たり日か」
「先生達がじゃあ今日は笠井の日だから笠井からーって当てるんですよ」
「…あぁ、やるな一年の学年団は」
「俺今日は5日だと思いこんでた」
「バカかお前、テスト前なんだから日付は把握してろよ」
「だってうちの教室の黒板2日になってたんですよ」
「…お前らな…」
「今日はクラスのやつらがふざけて笠井日とか書いてるし、だから当てられて」
「タイミングばっちりだもんなぁ」
「でも三上先輩とも一緒って凄いよね。あ、日誌に書いとこうかな」
「…俺は明日やんねーけどな」
「うるさいなぁ!」

笠井がぶつかってきて思わずよろけた。けらけら笑うのにぶつかりかえす。

「わっ、ノート落ちる!」
「落とすなよテメッ、受験生の混ざってんだかんな!」
「じゃあ俺に持たせないで下さいよ!」
「あっ」

ノートを返されてぐんと手元が重くなった気がする。睨んでやるといたずらっぽく笑った。

「…」
「…なんですか変な顔して」
「…最近よく笑うな」
「…そうですか?」
(あ 違う)
「なんですかもう!」

黙ったまま歩き出す三上に溜息を吐きながら笠井はあとをついてきた。

(俺が見てんだ)
「先輩 夜暇ですか?」
「…数字?」
「…だってバカみたいに課題出るんだもん」
「別にいいけど」
「あ、よかった」
「…」

 

 

 

(何やってんだ俺)

ノートをぼんやりと配りながら、黒板を消していないのに気が付いた。振り返るとかなり書き込まれている。

「…近藤ー、黒板消してー」
「あー?…あ、パスパス。伊藤の黒板消えねーから」
「じゃあノート」
「…お前人が日直のときは手伝わねぇくせによ…」
「サンキュー近藤」
「…お前って人生うまく生きてるよな」
「真似すんなよ」

近藤に残りのノートを預けて黒板へ向かった。筆圧の高い教師の授業のあとなので簡単には消えない。
一通り消して黒板消しをクリーナーにかける。

(…そうだ、数学持って帰んねーと。たまに意味わかんねぇ問題出すからな)

黒板の日付を見てふと思いつく。6の数字が朝から頭につきまとう。

(…笠井むかつく)
(……つーか俺キモイ)

綺麗にした黒板消しで、意地のように丁寧に黒板を消していく。
目に付いた、自分の字でかかれた6の字も消して。

(ダッセェの)

これも全部日直とその数字が重なったせい。
日付を書き直すことはせず、黒板を消し終えた頃教師が教室に入ってきた。黒板を一目見てそれを誉める。

「今日は一年のクラスも行ったけどそこも綺麗だったなぁ」
(…笠井?…いや、いやいや何考えてんの俺)

うまく気が切り替えられなくて困った。授業が始まったが何となくうつろだ。

(…俺の邪魔ばっかしやがって)
(数学なんか絶対教えてやんねー)

 

 


セリフ主体になってるなぁ。ガクリ。

041008

 

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