覗 き 見


「……寝れば?」
「……」

何か唸って辰巳は顔を覆った。椅子に座ったままの状態で、片手は本をしっかり握り、しばらくそうしていたかと思えばかくんと頭が落ちる。そこではっとして辰巳は顔を上げた。

「眠いなら寝なさいよ」
「明日返すんだ…」
「いいじゃん別に、読みきらなくても」
「今だけ耐えれば…」
「……」

この本の虫め。罵倒の言葉にそれを使い、中西は顔をしかめる。折角部屋に遊びに来てもいつもこの様だ。おまけに今日はまだ早い時間、一応決まっている消灯時間にはまだ2時間もある。それにしたって、眠いのなら寝ればいいのに。その睡魔の原因を作ったことを忘れている中西は、馬鹿だなぁと呟いた。

「寝なよ、せめてベッドで読めば?そのうち椅子から落ちるよ」
「……」

重たそうに顔を上げ、辰巳はしばらく中西を見た。あ、こいつ寝ぼけてんな。最近なんとなく彼が読めてきた。
本にしおりを挟み、ハードカバーのそれを抱えて辰巳はベッドまでやってくる。辰巳が構ってくれないのでやはりベッドで本を読んでいた中西の傍に座った。
視線は相変わらず、ついてくる。寝ぼけてるときばかり熱烈なのはずるい。

「辰巳君」
「正座」
「はい?」
「ここに」
「……」

何をさせるつもりなのか。いつぞやのように朦朧としながら説教でもする気だろうか。面白いことでも起きれば、と若干期待しながら、中西は言われたとおりに正座をしてみる。辰巳はその膝の前に本を置き、そして何事もなかったかのように中西の膝に頭を預けて横になる。所謂、膝枕の状態で。
一瞬にしてフリーズした中西は、しばらくの間ショックで両手を挙げたままの状態だった。はっと気付いてからも、その両手をどこに持っていけばいいのかわからない。

「……あのー…辰巳さん…?」

眩しかったのか、中西の腹の方へ顔を向け、辰巳は完全に眠る体制である。返事はない。

「30分で、起こして」
「……」

ひざまくら…
よほどの睡魔だったのか、辰巳は次の瞬間には眠っているようだった。さっと体が緊張するのを感じながら、中西はそっと辰巳の髪をなでる。風呂から上がって間がないのでまだ少し湿っていた。これって俺の膝も濡れるんじゃないの、気付きながらも、起こすことが出来ない。

(やばい、ずるい……)

動けない。これから足がしびれてくることは容易に想像がつくというのに。辰巳の髪を触りながら、中西は時計を見なかったふりをする。鼻歌も歌いたい状況。犬か猫のようだ。
すばらくじっとしていると、辰巳が一瞬目を開ける。目が合った気がして動揺するが、辰巳はもう目を閉じていた。気のせいかもしれない。

(…30分で起こすわけねーじゃんか、馬鹿)

 

 

 

「…あれ…辰巳先輩多分起きてますよね…」
「多分な…」

話があって来たのだが、悪戯心で覗いてみた部屋の中。三上と笠井は順に様子を伺って、音を立てないようにゆっくりドアを閉める。

「なんで中西先輩気付かないのかな…」
「ちゅーか、辰巳はなんであんなに不器用なわけ…」
「…あんたが器用すぎるんじゃないですか?」
「…膝枕して」
「嫌です俺は中西先輩みたいに盲目じゃないので」

 

 


嘘やん。

051008

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