布 越 し


・・・なんで屋上なんて行ったのか。
その日はぽかぽかといい天気で、部活も休みで洗濯日和。気持ちのいい風がばさりとシーツをはためかせる。
その白い大きな布の、向こう側。
ふたつの人影はひとつになって笑い声も止む。
ああ、そうなんだ。なんか納得。
そうだよな、ただ「仲がいい」にしては変だったから。男同士ってありなんだと気づくと同時に失恋決定。



「浜田最近元気なくねー?」
「・・・俺はお前ほど単純に出来てねーんだ」

ヒッデー!藤代が笑って背中を叩いてくる。それとは裏腹に笠井が本気で心配そうな視線を向けてきた。

「大丈夫?何かあるんだったら話した方がすっきりするよ、力にはなれないかもしれないけど。誠二みたいに何でもかんでも言うのはどうかと思うけどね」
「何でー」
「アリガト・・・はーあ」

笠井の言葉に涙が出そう。
しかしあれは言ってもいいもんか。でももしかしたら仲いいし知ってるのかもしれない。勘違いしたままよりはましだろう。

「・・・なぁ、」
「何?」
「中西先輩と辰巳先輩って付き合ってる?」
「「・・・・」」

困った様子で笠井はジュースの紙パックを潰した。何言ってんのこいつ、ってな呆れた雰囲気。
でも当たりなんだろうな。ほんとに勘違いだったら真っ先に否定してくれるだろうから。あの決定的瞬間もベタな勘違いであればと願ったのに。

「・・・いきなり何?」
「・・・こないだふたりが屋上で」
「えっちでもしてた?」

藤代の言葉に笠井が素早く殴りつける。
何、すでにそういう関係なのか。辰巳先輩はともかく中西先輩ならありえるのかもしれない。聞かなきゃよかった、へこみ度増し。

「あー・・・浜田、中西先輩あんなんだから辰巳先輩からかってただけじゃない?勘違いとか」
「・・・」

ほんとのことを言ってくれる気がないならいい、どうせならもっとうまく隠してほしいけど。
どうせダメ元だから自分で直接聞いてみる。




「ん?サッカー部?」
「・・・ハイ」

・・・だろうけど。中西先輩に覚えてもらえてるとは思わない。
たまたま教室にひとりだった中西先輩を引き止めたはいいけど、俺は何をどう聞けばいいんだろう。ほんとに勘違いだったらかなり失礼じゃないか?

「何?」
「あ・・・えと」

どうしよう。今ならなんでもなかったことに出来る?
・・・出来るか?この思いも?

「・・・先輩、と辰巳先輩って付き合ってるんですか」
「・・・うーん、微妙なとこね。俺は辰巳好きなんだけど」
「・・・・」

窓の傍に立って外を見る先輩の表情は穏やか。ここ最近見るようになった表情。視線の先は見なくてももうわかった。

「なんで?」
「・・・別に、」
「おいで」
「・・・・」

手招きされて、少し迷って近づいた。・・・多分こんなに近くまで来たのは初めてだ。
隣に並んで窓の外を見る。
三上先輩がバットを構えて、その先にいるのは辰巳先輩。グローブを持って真剣な表情を正面に向けて。

「あの顔で俺見てほしいんだけどねぇ」

ジャッとカーテンが引かれ、俺と先輩を区切った。かとおもえばぎゅ、と圧迫感。カーテンの焦げた匂い。

「・・・先輩、」
「今だけ辰巳にならせてあげる」
「・・・・」
「俺のどこがいい?」
「・・・縛られないところ」
「じゃあ残念、俺はもうがんじがらめだから。解く気はないけどね」

布越しに体温も伝わらない。分厚いカーテンが悔しい、けど安堵。



「あ、お前さぁ」
「・・・はい?」
「いっつも外周でトップ走ってんのお前?」
「・・・失礼しましたッ」

一直線に教室を飛び出した。先輩の意地悪そうな顔が目に浮かぶ。
なんで、なんで。知らないふりしたくせに。なんで。

「・・・くそ」

オニだ。アクマだ。からかいやがって。
知ってて好きになったのは俺だけど。

 

 


外面はいい中西。
夢にしようかと思うのだけどめんどいからそのまんま。
しかし辰巳って多分キャッチャーだと思うわ。中西がわがままピッチャー(バッテリー?)

040430

 

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