ら く が き


ホモ!

至極質素簡潔に、その文句は書かれていた。開いたノートにでかでかと。
字が汚くて読むのに少し悩んだほどだ。いっそ芸術的であるけれど、今日提出のこのノートからは切り離さなくてはいけない。
そこで笠井ははっと思い当たり、ゆっくりページを開く。…そのメッセージの裏が、ご丁寧に提出部分のページだ。
笠井はうんざりしながらページを切り離し、急いでそれを写していく。

(久しぶりだな…)

たまに、あったのだ。
いつからか三上との関係が静かに広がり、それから。幸い三上の方へは滅多にないらしい。

(誰だろ…サッカー部で、さっきの時間空いてそうな…)

犯人探しをする気ではない。
だけど三上へまで影響が行っていないかが気になる。あの人はあれで繊細だから、細事の影響だって強いだろう。

(バカみたい)

こんな非生産的な。
…それは自分達も同じか。改めて嫌がらせの文句を眺めた。

 

 

 

「…おい…」

流石にこうも立て続けだと笠井とて穏やかではない。
────薄暗い倉庫、窓からかすかに入る明かりでボールのかごなどは避けられるが、どう考えても外から開けられるまで出れないだろう。早く帰りたいのに。

「…なぁ、誰かいるだろ!開けろよ」
「きしょいんだよ、喋るな!」
(…アホだ)

やはりサッカー部だ。声で誰だかも分かった。
なんて間抜けな。笠井は怒る気もなくして溜息を吐く。

「…このまま俺を閉じこめてどうする気?」
「明日には出れるだろ、死にゃしねぇよ」
「つか俺がいなかったら大騒ぎになると思うんですけどー。仮に明日出れたとして、俺があんたに閉じこめられたって言ったらどーすんの」
「ッ、」
「一緒に片付けしてたの見てた人も絶対いると思うんだけど」
「う、うるせぇな!」
「出す気ないなら早く更衣室戻りなよ、グズグズしてたら寿命縮まるばかりだよ。キャプテンにも迷惑だし」
「…」
「…俺の何が不満なの」
「ほ、ホモとか気持ち悪いんだよ」
「それで?」
「え?」
「こんなことするなら要望があるんでしょ、彼女でも作ればいい?サッカー部やめればいい?」
「な…」
「用もないのに引き留めないでよ。人に構ってないで他に時間使えないわけ?」
「…」
「…鍵開けて、そこに鍵置いて帰れ。俺が鍵しめるから」
「…」

返事はなかったけど金属音はした。それから何人かの足音。
群れてるお前等の方が気色悪い、笠井は顔をしかめる。

「…三上先輩」

だって好きなんだからしょうがないじゃないか。笠井はずるずるとしゃがみ込み、そこにうずくまる。
何で人の気持ちの邪魔ばかりしてくるのか。一番邪魔な自分すら持て余している毎日なのに。

みんな みんな 嫌いになれればいいのに。

 

 

 

ノートを開く。
また小さく何か書かれていて笠井は呆れたが、よく見るとそれは見覚えのある字。
書いてあるのは、ふざけたような好きだ!の一言。

(…何で、みんな人のノートにらくがきしたがるのさ…)

笠井は少し迷い、気付かなかったことにしようとノートを閉じる。
人のノートにらくがきする奴なんかろくな奴じゃない、思いながら、許せそうな気がしてきた。

 

 


笠井の方が三上を強く思ってるような気で書いてたけど、要は笠井は容量ちっさいんじゃないかと思った。

050620

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送