連 絡


「あ、笠井」
「はい?」

解散後コーチに引き止められて、笠井は藤代を先に返した。
3年が表向きの引退になり、笠井はそれから寮長を引き継いでいる。

「3年に、アルバムに載せる集合写真撮るから、月曜ユニフォーム持って来いって伝えといて」
「あ、はい」
「放課後4時から、グランド集合」
「はい」

月曜4時、グランド。頭の中で繰り返す。
寒い。12月はまだ寒い。高校2年の冬、今までの中で一番寒いんじゃないんだろうか。
大雪でグランドが使えなくなったり、そうかと思えば嘘みたいに暖かくなったり。異常気象というやつなのだろうか。
でも笠井は天気なんかどうでも良かった、一番落ち着かないのは自分だ。

 

 

一応伝達の黒板に集合のことを書き、その上で渋沢に伝えにいこうとする。部屋に行こうとしてためらった。
この時間、三上は何処にいるだろうか。
会いたくない。会わないようにしているのは自分だ。

(談話室、部屋、自習室・・・は渋沢先輩は受かってるから用ないかな・・・)

何処へ行こうか。
笠井は足を止めて、黒板の前で悩む。

「邪魔」
「え、」

すみません、と反射的に振り返って。
そこに立っているのは段ボールを抱えた三上。
かっと体温が上がった気がして笠井は身構える。喉が渇く。
邪魔なはずがない、松葉寮の廊下だって決して狭くない。人ふたりぐらい余裕で通れる。

「何、写真?」
「あ、・・・はい、昼間コーチから。月曜の4時から、卒業アルバムの集合写真を撮るから、ユニフォーム持って集合」
「ふーん・・・あれって前撮らなかったか?」
「あれ、あとから確認したら何人か足りなかったみたいで」
「めんどくせー。ユニフォームなんか何処しまったかわかんねーよ」
「・・・」
「・・・おい、これ、持て」
「え?」
「資料室まで」
「あ・・・はい」

無理矢理みたいに段ボールを持たされた。予想外の重さに一瞬よろける。
三上が前に立って歩き出した。すこしためらって、追いかける。

「・・・これ資料室ですよね」
「そう」
「・・・持って行けって意味ですよね」
「そう」
「・・・なんで先輩も行くんですか」
「お前それ元の場所に戻せって言われてできるのかよ」
「・・・」

段ボールの中を覗き込む。
大学の資料などが結構な量入っていて、笠井はまだ詳しくは知っているわけではないがちらりと見た限りでも北から南からと資料はそろっている。

「・・・」

でも俺は先輩と居たくないよ。
言葉を飲み込んだ。
受験が終わるまでは先輩と後輩で、と切り出したのは自分で。そこから先も先輩と後輩だ。
ここを出たら、あなたは俺の先輩ではなくなるでしょう。

「・・・俺、やっぱりあれ渋沢先輩に連絡してこないといけないんで」
「・・・いねーよ」
「え、」
「誰かさんは余裕こいてっからデートに行きましたー」
「・・・」
「俺が言っとく」
「・・・はい」
「だからちょっと手伝えよ」
「・・・はい」

別れを切り出したのは夏だ。期末テストが終わった頃。
それからしばらく粘っていた三上も今は諦めたようで、もう長い間触れてはいない。表面上会話は交わす。喧嘩をしたわけではないから。

「笠井先輩!」
「! 何?」
「あ、大木が熱出して、寮母さんが呼んでます」
「分かった、・・・先輩、」
「・・・おぅ。風邪菌ばら撒くなよ」
「はいはい。大木の部屋って何処だっけ」
「2階の・・・」

 

 

笠井の後姿を追って、残された荷物に視線を落とす。
三上はそれを持ち直して資料室へ向かった。重さが増したような気がする。

笠井の足音が聞こえなくなった。

 


隊長!マークしている人物がこんな話を本で出す気であります!

050224

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