隣 人


「イテッ」

笠井は頭を抱えてしばらくの間床で悶えた。
何か呻きながらようやくのそりと起き上がる。頭を撫でながら恨めしそうにベッドで眠る三上を見た。

「畜生…」

きっと末っ子だから甘やかされて育って、人のことなんか考えてないに違いない。
勝手に三上を定義しながらベッドからはみでた足を乱暴に押しやって、笠井は無理矢理自分の寝るスペースを作る。途中ふと考え、壁側を空けて三上をこっちへ引っ張った。
殆ど体格差のない男を動かすのはなかなか骨が折れる。少しベッドにもたれて一息吐いた。
────まだ外は真っ暗だ。寝入ったのは日付が変わった頃だろうか。二度寝する時間は十分にあるだろう。
よいしょと思わず口にしながら三上を乗り越え、笠井は三上の隣に横になる。じっと三上の横顔を見て、手を伸ばして頬をつついてみるが反応はなかった。
部屋の明かりは豆電球のみ。そこそこに整った顔をしているのに、口が薄く開いてなんともまぬけな寝顔だ。

「…」

むくりと上半身を起こし、三上の顔を見下ろす。
ふっと息を吹きかけると前髪が流れ、そのせいなのか三上はわずかに眉を寄せた。笠井は少しためらって、三上を起こさないよう慎重に体を倒す。唇が触れた一瞬に三上の体がびくりとし、笠井が慌てて体を起こすが起きた様子はない。
妙に理不尽な気持ちを抱えて、笠井は再び布団に潜り込んだ。何となく頬が緩む。指の先だけ三上に触れさせ、笠井は黙って目を閉じた。

 

 

「イッ……」

痛い。何処が痛いのか考えながら三上は床の上で悶えた。頭と膝をぶつけたらしい。
何か呻きながら目を開けると部屋は少し明るくなっている。しばらく状況が読めずに部屋を見回すとベッドから笠井の足が突き出ていた。足の裏をくすぐってやるとすぐに引っ込む。

「…畜生」

確か壁側で寝ていたと思ったのだが。犯人はひとりしかいないので罰を与えてやろうとベッドに上がって笠井に跨る。
くそ生意気だから人を思いやる気持ちがないに違いない。痛みのお陰で寝起きはすっきりだ。但し気分はともかく。

「…」

部屋の薄明るさから考えるともう明け方だろうか。
惚けたような寝顔に起こすのは可哀想になり、ゆっくり下りて笠井の隣にスペースを作る。すぐに起き出す笠井だから慎重に、笠井が唸るたびにびくりと手を止めて。もしや起きてないよなと思いながら。
狭いながら一人分のスペースを作って三上はそこに座った。笠井をじっと見下ろす。自分よりひとつ年下なだけなのにずっと年下のような気がした。

(…これ…俺と付き合ってんだよなァ…)

殆ど無意識に体を倒して唇を重ねた。笠井が一瞬目を開けて、三上は思わず身を引いたが笠井はまた目を閉じた。起きたわけではないらしい。
そろそろと布団を引っ張って、Tシャツの下にそっと手を差し込んだ。笠井がぴくりと反応し、するっと手を滑らせるとふっと息が漏れた。
色々心に抱えながら、起きそうだと思って結局シャツも布団も直す。平和そうに寝やがって。
寝れないだろうと思いながら三上がベッドに横になると、睡魔はすぐにやってきた。

 

 

 

「…笠井?」
「はい?…あ、キャプテンおはようございます…早いですね」
「いや、早くないぞ…姿がないと思ったらまだ寝てたのか」
「はい?………!」

時計を見て笠井は飛び起きた。ベッドを下りる勢いで三上を蹴り飛ばす。

「ッ…てー…」
「キャプテン三上先輩任せました!」

笠井が走り去って、渋沢は呆れて溜息を吐いた。とにかく三上は起きたらしい。

「…何だァ?」
「三上、あと20分」
「あ?────ばっ…起こせよ!」
「笠井が一瞬のときはあいつが起こしてるから」
「…笠井は?」
「今起きて、慌てて出ていった」
「…」

畜生。
無理矢理意識を起こして三上はベッドを下りる。

「あー…クソ…顔洗ってくる」
「…真っ直ぐ歩け」

 

 


恥ずかしい。

050606

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