先 輩 後 輩


「笠井ィ、何それ」

片足は指定のシューズ、もう片足はスリッパだ。
笠井はスリッパを脱いでクラスメイトに包帯を巻いた足を見せる。

「どったの」
「あの人にぶっ飛ばされたの」

どすんっ
鈍い音にクラスメイトが振り返れば、教室の入り口で人がうずくまっている。
キッと笠井を睨んでいるその人は彼の先輩、怒らせてはいけない人三上亮。朝から目一杯不機嫌そうだ。

「笠井ッ」
「先輩鞄机まで運んで下さいよー」
「お前ぜんっぜん怪我軽いじゃねェかッ鞄持って歩けるだろ!」
「先輩が荷物運びやるって言ってくれたんじゃんv」
「〜〜〜ッ・・・」

三上が立ち上がり、さっきの鈍い音の正体らしい笠井の鞄を持ち上げて教室を突っ切ってくる。
ドスンと笠井の机に鞄を置いて、振り向きもせずに教室を出ていった。笠井がその後ろ姿をくすくす笑う。

「・・・何があったんだ?」
「昨日の練習で三上先輩に吹っ飛ばされて、俺変な転け方しちゃってさ。一応病院行ったんだけど軽い捻挫で、でも誠二とか中西先輩が適当に骨折して松葉杖ついてるとか嘘吐いたらしいんだよ」
「・・・うん、中西先輩なら言いそう」
「それで三上先輩を冗談で責めてたら、マジんなって荷物運びでも何でもすると言い切ったらしくて」
「・・・だからってお前、本気で先輩使うか」
「使えるものは使う」

キランと効果音付きで言いきった笠井をクラスメイトは羨望の眼差しで見つめた。

「・・・俺 お前好きだなー」
「俺 久保田はちょっと好みじゃないなー」
「そんなぁっあの夜言ったことは嘘だったの!?」
「悪いけど俺そこまで乗れないよ・・・」

 

 

「・・・あの・・・俺早く行きたいんですけど?」
(先輩帰りまで・・・!)

放課後2年の教室に現れた三上に久保田は軽く感動を覚える。
怖いと評判だった先輩の律儀さに、いい人なのかと考え直す。しょっちゅうこの教室に現れる人ではあるが、直接話をしたことは一度もない。

「もう俺行くぞー、お前待ってたら部活遅刻じゃねェか。お前どうせ出れねぇんだからチンタラ来いよ」
「えーっ、いやですよ今日辞書持って帰るんですから!」
「・・・・・・」
「そもそも俺が居残りなのは先輩の所為ですからv」
「ぶっとばされるような笠井ちゃんが悪いんですv」

あっでもやっぱりコワイv
笠井同様居残りの久保田は座っている椅子の上で極力三上から遠ざかる。
廊下側の笠井の席の傍の窓を開け、三上は廊下から机にプリントを覗き込んでいる。
笠井が病院に行ってる間に行われた生活アンケートの調査だ。今日が締切なので居残りだがそう時間がかかるものではない。

「ったくこんなアンケートテキトーに書けばいいんだよ。あ、睡眠時間うっそでー」
「だからテキトーにホントのこと書かないんじゃないですかー、ホントのことも混ぜつつv」
「・・・俺・・・お前に騙されてる奴が不憫・・・」
「失敬ですね、嘘も含めて俺ですよ」
「寮での学習時間は?って。俺お前が勉強してるとことか見たことねェ」
「それはこっちのセリフです」
「現在悩んでいることは?先輩に対する態度が悪い後輩がいます」
「何かとつっかかってくるタレ目がいますって書いとこうかなぁ」
「お前・・・」
「ってゆーか煩いんですけど!終わらないじゃないですかッ」
「暇なんだよさっさと終わらせろ!」

しばらく無言で睨み合い、笠井がはあぁと大きく溜息。
自分のアンケートどころでないクラスメイトはじっとふたりを見る。
笠井の溜息にカチンときたらしい三上が拳を握り、笠井がそれを制してネコでも呼ぶように指で誘う。
何だよと顔を寄せた三上の不機嫌そうな顔を捕まえて、笠井が一瞬だけのキス。
三上が凍っている隙に突き飛ばし、ピシャンと冷たく窓を閉めて鍵まで掛ける。

「・・・・・・笠井?」
「見てた?」
「・・・・・・」

見てたってお前。
そう言う趣味?とか聞こうと思ったところに笠井スマイル。にこりと爽やかに。

「やだなー本気でするわけないじゃん、フリだって。寸止めてるよー」
「そ・・・そうだよな!幾ら仲いいっつってもな!」
「当たり前じゃーん誰が三上先輩となんか」
「・・・廊下に聞こえないか?」
「聞こえるように言ってるんだよ」
「・・・・・・」

運動部って案外厳しくないのかな。
彼がここだけが例外だと言うことに気付くのはいつになるだろう。

 

「それにしても笠井って結構怪我多いよなー。呪われてんじゃねェの?」
「あぁ、前のは祓ってもらったんだけど。また何かついてるのかも」
「・・・・・・」
「肩重いしなー。前は女の人だったんだけどさー」
「・・・俺 笠井と一生仲良くしたいな」
「俺は君の人生にスパイスを与えるために存在してるわけじゃないからね」

 

 


怪我ネタとか風邪ネタとか好きだなあたし。大好きさ(認)。
果たしてホントにキスしたかどうかは三上君に聞いてみて下さい。

040430

 

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