好 き


「・・・ごめんって」

小声で呟いても彼は反応しなかった。ムス、と背中が不機嫌を語る。
授業は始まったけど落ち着かない。藤代はそわそわして前の席の笠井をただ見るばかりだった。
なんてことはない、ちょっとした戯れのつもりの冗談が笠井を怒らせたらしい。だからっていつまでも怒ってなくてもいいじゃないかと思う。
藤代の方も段々と不機嫌な気分になってくるけど、だけどこのままだと笠井は当分相手にしてくれなさそうで少し焦る。

(・・・だってタク最近先輩の話しかしないんだもん・・・)

ふんだ。拗ねて椅子の足を蹴ってやると露骨に睨まれた。
一瞬注意しかけた教師が笠井の目を見て止める。

(好きなのはもう十分分かったけどさ、最近俺への愛が足りなくないですかタクミさん)
(俺だってお前と遊びたいのに)

段々憎らしくなってくる。なんでそっちが怒らなくちゃいけないんだ。
理不尽な気持ちを胸に秘め、藤代はばれないので背中を睨む。抜けた髪が背中の中央辺りに張り付いていたけど取ってやらない。

(・・・そんなに好きなのかな)

サッカー部というだけでなんとなくもてているらしい、という意識しか自分にはない。
今は誰かと付き合って云々よりも笠井と遊んでる方がずっと楽しい。

(タクには俺以外に先輩がいるんだ)

そこは藤代が立ち入ってはいけない暗黙の了解の世界。
本気の恋かどうかなんて自分が体験したことがないので傍目には何も分からない。

国語教師が藤代から離れた場所の生徒を当てて、教科書を朗読させた。その内容も聞かず、笠井の背中を見る。
クラス中でページをめくる音が不規則にざわめき、それと同じころ笠井の腕も動いた。藤代のことなど忘れたように、授業に集中しているんだろう。

(俺なんか)
(俺なんかタクのことでいっぱいなのに)
(どうせ集中してないのはいつもだけど)
(ガキなのかな俺)

今まで好きになったのは幼稚園の梅組の綾ちゃんで、いっちょ前にちゅー、とかした事はあったけれど。
今好きな人がいないと笠井の気持ちなんて分からないんだろうか。

「・・・タク」
「・・・・」
「ごめんって」
「・・・・」

完璧無視を決め込まれて八方ふさがり。顔をしかめて背中を見る。
いつの間にか朗読は終わっていて、教師がプリントを配っていた。あーまた意味調べのプリントじゃねぇの、俺辞書どっかいったんだから止めてよそれ。
脱力して机の上に頭を落とす。こつんと軽くぶつけて、机の冷たさが額から伝わった。
ばさりと紙が頭に当たり、少し間があって笠井が立ち上がって藤代の後ろの回した気配がする。寝てないのは分かってるはずなのに。

がさりとプリントが腕の隙間に突っ込まれようとしている。
わざとぺたんと腕をつけて隙間をなくすと、最後には平手が高等部を叩いて、鼻が机にぶつかった。しぶしぶ顔を上げると、はい、とプリントが机に置かれる。
何故か裏面、目を瞑っていた所為かはっきりしない視界に少し目をこすり、ふとそこを見れば言葉が。
もういいよ、と、一言だけ。

「・・・はは、」

途端に緩む頬を押さえきれず、足を伸ばして笠井の足に触れる。
一度うっとおしそうに逃げられて、またゆっくり戻された足にぴったり足の裏を合わせた。
にやりと笑って、プリントはいつもなくしてしまうけど、コレは頑張って保管しようかなぁなんて考える。

(先輩に自慢してやんだ)
(あんたは出来ねぇだろこんなこと)
(親友っていうのかなコレ)

(いいな、これ)

なかなか快適。
授業が終わってから、笠井は足が痛そうにして藤代を見てきたけれど、そんなことは気にならない。

「俺ねぇ、」
「何」
「タクのことすげー好きかもしんないよ」
「・・・あぁそう」
「冷たッ」

 

 


三笠ベース?別に中笠だろうが辰笠だろうが渋笠だろうがって感じですが。
ふじっこはノーマルですよ。

041001

 

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