や は り


「 あ け お め ー ! 」
『…うん…たんじょーびおめでとー…』

電話の向こうの笠井の声が死んでいた。あちゃあ、と思う。そこで電話を切ってしまえばよかったのかもしれないが、お礼を言わなくてはと思ってしまって切るタイミングをなくした。
何かごにょごにょと呟く声が聞こえ、身動きする音がする。

「…あのー…まずかった?」
『…ううん。先輩寝たし』
「あーそう…」

結局今年も一緒なわけだ。去年の今頃は本当に失敗だった。真っ最中にかけてしまったようで、あとで三上から沈黙の圧力を受けたのだ。直接口にされる方がましだった。あの人はあれでロマンチストだから、ふたりっきりで年越しなんて思って雰囲気に酔っていたんだろう。
来年は時間合わないから、と言い訳のように寮を出るときに言っていたから、今年は遠慮なくかけてみたのに。


『…い、言っとくけど、先輩がどーしてもって言うから』
「はいはい(結局折れたんだなー…)」
『ほんとだよ!なんで年明けの瞬間に毎年この人と過ごさなきゃなんないのさ!』
「まー今年は終わってるだけまし〜?」
『しつこいなァ…』

そうは言われてもこっちだって健全なる男の子で、なんでもない素振りで付き合ってはいるけれど、ふたりが何をどんな風にしてるのか、と興味を沸かずにはいられない。三上はともかく笠井はその辺りを汲み取ってくれないようだからかなわない。
わかってますか笠井さん、俺ら一応ちゅーがくせいで、ゆっちゃえば俺彼女もいないチェリー君だぜ?正直お前ら刺激が強すぎるんだけどそこんとこわかってる?

『寮戻ったらプレゼント渡すね』
「えー、いいよーもらうけどー」
『ケーキ買って行こうと思って。中西先輩もお祝いできなかったしさ』
「あーいいんじゃん?どうせあっちはあっちでラブラブじゃないの?」
『…それが…辰巳先輩忘れてたみたいでさ…』
「……え、年明けの練習試合大丈夫かな」
『だから少しばかりでもフォローをさ…』
「うーん…どっちにしろ辰巳先輩がどうにかしないとなー」

正月から友人の誕生日と他のバカップルの心配と忙しい彼氏を持って三上先輩もなかなか気の毒だとは思う。でも俺の親友取っちゃってんだからそれぐらいの苦労はいいんじゃねーの?とちょっとやさぐれた気持ちでしばらく取り留めのない話を続けていたら、そのうち恐らく笠井の傍にいるであろう三上は目覚めたらしい。笠井がしっし、と追い払っているのが聞こえた。

「タクはいつ戻るの?つーか今何処なの?」
『……えーとォ…』
「何?」
『ラブホ?』
『ちょっ、先輩携帯返して下さいよ!』
「……てんぱーい」
『そろそろ出なきゃなんねーんだよ。切るぞ』
『バカッ、誠二ッ、嘘だからね!そんなとこ行くわけないじゃんッ先輩の』

そこで電話は途切れた。かけ直してみようと思ったが、今頃三上がこうして笠井がこうなってるのかな、と一瞬頭をよぎったので諦めて携帯を手放した。
他にかけられる友人は沢山いる。部活内にもクラスメイトにも、小学校のときの友達だってまだ連絡を取り合っている人はいる。だけどやっぱり誕生日のこのときにかけたいのは、中学へ入ってから一緒にいろんなことを乗り越えてきた笠井なのに。

(あー…やっぱり三上先輩が憎い…)
「お、誠二まだ起きてたか」

さっきどっこいしょと立ち上がってトイレへ行った父親が戻ってきた。さっきの位置に座ってこたつに潜り込み、机に残ったビールの缶を振って中身を確かめる。生憎トイレへ行った隙に自分と兄とで空にしたのだが、父親は何も疑問を抱かずに落胆した。

「寝ないよー、寝ないっしょーこの時間。今からお笑い見るしー」
「紅白どっちが勝った?」
「父さん見てたじゃん!ここで!」
「寝てた」
「あーあ。白の勝ちー」
「そうか…お前誕生日だな。大変だったぞー生まれたときは…」
「またその話するし」

正月のたびに聞かされている気がする。あーあ、と思わず溜息を吐いた。

「やっぱりタクと一緒がよかったなー」

 

 


遅ればせながらハピバ!笠藤にするか迷った。笠井達は三上兄のおうちにいます。

060106

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送