珍しいモンを貰った。
取り敢えず食ってみた。

取り敢えずチャリに飛び乗った。


無 花 果


「・・・どうした?こんな時間に」
「っ・・・ハ・・・ァ、あー・・・何で全力でチャリ漕いでんのさアタシは」
?」

ドアの前でしゃがみ込んだを心配して、尾形もしゃがんでの顔を覗き込む。
は大きく息を吐いて、しばらくそのまま息を整えた。
マンション3階踊り場、休憩場として利用するのはどうだろう。

「あっ・・・あの、さ」
「どうした?」
「あのっ・・・何だっけっ・・・・・・あーっ名前が出てこないっ!! ハァッ・・・あの・・・あんたが好きなヤツ」
「え?」
「果物!・・・て言うかアレって果物なの!?すっごい邪道な形状してるけど!」
「・・・いちじく?」
「それ!!」

は勢いよく立ち上がった。
勢い良すぎて、立ちくらみを起こして後ろによろける。尾形が慌てて腕を掴んだ。
その腕が、ビニール袋を尾形の前に突き出す。

「やる」
「え?」
「・・・貰ったから、あげる」

じっと俯いたままは言った。
尾形がなかなか受け取ろうとしないので、その胸に押しつける。
別に尾形は要らなかったわけではなく、状況が良く飲み込めてなかっただけだ。
だって自分が支離滅裂なことを言っているの承知である。

「あの・・・・・・いちじく、貰ったから、・・・・・・好きだって、言ってたから」
「えっ・・・あっ、ありがとっ」

動揺を隠せないまま尾形がやっと受け取って、目が合ったは又俯いた。
上着の裾を引っ張って、未だ落ち着かない息を極力静かに吐く。
夏に履いたのを最後に、制服以外でスカートは履いてない。今日の格好も、ヘタをすれば尾形よりも少年らしいかもしれなかった。

ビニール袋の中には、よく熟れたいちじくが3個。
別に感情的に覚えていたわけじゃなく、只変なヤツと思った記憶があったから覚えていた。
別に、不味いとは思わなかった。だけど「好きな食べ物」に挙げるほど好きじゃない。
家族の評判も、悪くはないけど言いといえない。

「・・・それ、美味しい?」
「・・・やっぱりそれ聞く?」

尾形は苦笑した。
がやっと顔を上げて、何となく笑い返す。

「あがる?」
「えっ、あ、イヤ、持ってきただけだしっ」
「いつもイキナリ来る癖に何言ってるんだよ」
「・・・へへ?」

が曖昧に笑った。
しばらく、間。

「・・・お邪魔します」
「どうぞ」





「何やってたの?」
「チャンネル修理。ビデオの録画出来なくなって」
「本体じゃなくて?」
「直接やれば録画は出来るよ。コード予約が出来ないから」
「あぁ、じゃあチャンネルだ」

机の上に転がっていた細いドライバーを少し転がし、は尾形に向き直る。
部屋に入ってきたばかりの尾形はローテーブルに紅茶を置いた。
コイツはホントは、アタシが来ることを知ってるんじゃないだろうか。そう思わせる行動の速さだ。

「・・・まぁ、この様子じゃ尾形もテスト勉強やってないね」
「も、って他人事みたいに・・・」
「だってアタシがやるわけないじゃん」
「・・・らしい」

尾形が笑ってからドライバーを受け取った。
傍にあった工具箱のような所に投げ入れて、口を開き掛ける。
丁度ただいまー、と玄関から声がした。

「あっ・・・おかえり!ちょっと待ってて」

に手振りして見せて、尾形が部屋を出ていった。

ただいま
おかえり

何てことない、我が家でも聞こえる会話なのにしばらく聞いてなかった気がする。
イヤ、自分の家もちゃんと挨拶はしていたはずだ。他人の家の挨拶は暖かいと思う。

微かに会話が聞こえる。
誰が来てるの?
 いちじく貰った
あら ・・・何処が美味しいのかしらね




「つまり、この家でもいちじく愛好家はアンタ1人なワケだ」
「愛好家って・・・まぁ家族の中じゃ好きって言うのは俺だけだね」

部屋に入ってきた途端の言葉に、尾形は苦笑しつつも平然と応えた。
いい加減突然の訪問にも問いかけにも慣れたらしい。
熱すぎない紅茶を一口口に含んで、は軽く息を吐く。

「はい」
「ん?」

クッキーが盛られた綺麗な皿が、の前に置かれた。
売ってるモノとは違う、ひと目で手作りだと判るものだ。

「・・・食べて。持って帰ってくれても良いんだけど」
「・・・お母様がお作りになられたの?」
「分量間違えて大量にな」

いただきます、と食事でもするようには手を合わせた。
一口サイズのクッキーを口に入れた。市販のモノより若干固いが、あまり気にならない。

「旨い。・・・じゃない、美味しい」
「ん、どうした?」
「・・・親父に言葉遣い直せって言われた。テメェの言葉遣いが悪いンだっつの」
「・・・・・・」
「あーでも良いな、クッキー作ってくれるお母さんとかって。うちの母親精々ゼリー止まりだったね」
「ゼリーって何で作る?」
「・・・ゼラチンと水と、味と色付けにジュースとかのみ」

過去に作ったことが一度だけ。
妙に感動した記憶があるが、市販のゼリーより固くて何だか不愉快だった。

「ふーん・・・やっぱ女の子だな」
「はっ、はぁっ!?」
「イヤ・・・だって俺なんかだとお菓子作りとか一生縁なさそうだから」
「・・・アタシだって・・・同じだよ・・・。小学生ぐらいに、母親真似てただけだもん」
「じゃあ俺はその頃親父と一緒に森の中だ」
「森?」
「鳥見に」
「あぁ・・・」

いちじく


絶対可笑しい、と思う。

「・・・最近はさぁ、女の子なんだから料理のレパートリー増やしなさい、って。アタシ肉じゃが嫌いなのに作らせようとするんだよ!?」
「そりゃ大変だな、ピューラーもまともに使えないのに」
「・・・何で知ってるのよ」
「野溝に聞いた。小学校で同じクラスだってな」
「・・・・・・あいつめ・・・」

何か決意した風にが宙を睨んで尾形が笑う。
何だか自分は尾形を笑わせに来てるようで、何となく恥ずかしくなってそれをやめた。





「・・・いちじく、は食べてみた?」
「・・・ちょっとだけね。家族全員でひとつ食べた」
「ホント少しだ」

クスクス笑いながら、尾形は傍に置いていた袋からいちじくをひとつ取り出した。
例えるなら、形は洋なしが一番近いんじゃないだろうか。
くすんだワインレッドの表皮は未だ緑の部分が残っている。

尾形の手が、それをふたつに割った。
いちじくご開帳、が言って尾形が吹き出す。

「・・・いちじくの中って気持ち悪くない?」
「コレ?」
「そう。何かヒダみたいな。あの・・・小腸の柔突起みたいな感じ!!」
「た、確かにね」

又笑う。
は悔しくなって目をそらした。

「知ってる?コレは花なんだ」
「花?・・・だってコレ、実の中じゃん」
「そう、いちじくは実の内側に花が咲くんだよ」
「花・・・」

はいちじくの断面を覗き込む。
うっすらとピンクに染まった『花』は、実の内側にびっしりと隙間なく詰まっていた。
・・・とても、花には見えない。

「漢字で書くと、無花果」

傍にあった適当な紙に、尾形がペンを走らせる。


 無花果


「・・・何か貧相」
「そうか?」

尾形が笑った。
可笑しくて笑ったのではなく、笑顔を見せる。

「淋しいヤツだね、内側にしか咲けないなんて」
「そう?」
「うんでも・・・何かスゴイや」


「・・・俺は、は無花果みたいだと思う」


「・・・は?」
「ちゃんと綺麗に咲いてるのに」



意味がわからん。

そんなわけで、再び全力疾走。





「・・・ちゃんと、咲いてるのにな」

俺は知ってる





アイツの 『らしい』 は腐るほど聞いた

聞き飽きた



みたい』 は



初めて聞いた




家に帰って、残っていたいちじくを食べてみた。
無花果。
特別甘いわけじゃない、花のピンクと同じぐらい微かに甘い。

尾形


無花果はアタシじゃなくて


この感情みたいだ。

 

 


やっちゃった。突発的尾形夢。
イヤ・・・いちじく食べたら母さんが要らない予備知識を教えてくれたのでアタシに書けと言ってるのかと思い。
尾形さん ス テ キ ! (オイ・・・)
何も考えずに書いたからアタシが書いた実感ナシです。エエ。

021012

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