いつからかは知らない。
ふと目覚めれば貴方が居た。

気になるのは貴方だけ。
その他大勢の声なんか嬉しくもない。

て  言  う  か  !

鈍すぎ!!


s i n k   o r   s w i m


「 あ つ い ・ ・ ・ ! 暑い暑い暑いー!!」

衣替えもすっかり済んだこの季節、一体何を暑がることがあるというのか。暑いのは限定だ。
クラスの紅一点は、さっきからパシリにされて1階と4階を往復している。1階と4階、すなわち教室と事務室。
勿論階段を駆け上がる際には両手に荷物付きである。

「っ・・・5往復ッ」
「拍手ッ!!」

の生還にクラス中が手を叩いた。
因みに拍手の音頭を掛けたのは、クラスの女子だ。を紅一点とは言うが、このクラスに女子は2人いる。
も戸籍上は女だが、女子校にでも行けば王子様間違いなし!とてもアイドルとは言えない。

さて、クラスのアイドルをパシリにしている今日この頃、岩工では文化祭の季節だった。
各クラス発表するモノは違えど、どのクラスにも共通するのは各クラスパネル展示。
その材料集めには駆け回っていたわけだ。

「もー駄目・・・次は行かない・・・」
諦めろ!あんたじゃなきゃ斉藤は落とせない!」
「イヤなのーっ!アタシアイツ嫌いなのー!!」

それは誰でも言えることだった。
事務の斉藤、誰が好いているというのか。女子更衣室を覗いたとか覗いてないとか、そんな噂ばかりの嫌な奴だ。

「まぁクラスのためだ」
「世良君のばかぁ〜!」

尾形は1人苦笑する。
毎度のコトながら、あの変身は素晴らしい。

「ホラさんのお陰で予算も余裕が出来そうだしさ、本気出していくぞ!!」
「おう!!」

動くパネルを作ろうと、なるべくなら可動部分にお金を掛けたかった。そう言うわけで、紙類の収集にが使われたのだ。
クラスのアイドルをこき使った男達、本気だ。




「・・・・・・あぁ・・・キモかった・・・」
「疲れ」
「・・・よく考えたら誰か一緒に来ればいいじゃん?
 んでせめて廊下で待ってるとかしてくれたらさぁ、アタシ実は重い紙類を抱えて階段上らなくても良かったんじゃん?」
「・・・・・・」

疲れすぎて、被っていた猫が1匹2匹と肩を降りていく。それは勿論教室の隅で近くにいるのが尾形だけだからなのだが。
さっきまで居たは、釘を扱う男共の手付きに耐えかねたらしい。
制服のスカートの下にジャージを履いて彼らを蹴散らしに行った。男らしい。

「・・・大丈夫か?」
「ぜんっぜん大丈夫でしてよ?」
「・・・・・・」

暑い、との脱いだブレザーは何故か尾形の手に渡され、一瞬クラスの視線がそこを向いた。
尾形は只誤魔化すように苦笑する。

「ハァ・・・もう暑かったよぉ、ホント。緊張したしキモかったし」
「ホントありがとなさん!!」
「マジでありがとう!!今度なんか奢らせてな!」
「ううん全然気にしないで、クラスのためだし!!」

・・・尾形は苦笑するしかない。肩にネコがよじ登ったのが見えたような気がした。
皆が作業に戻る。

「・・・あっつー・・・」
「・・・・・・顔まで変わってる・・・」
「アッハーン?女は変わるのよ」
「・・・・・・」

どう贔屓目に見ても、の運動神経は限りなくゼロに近い。ホントに緊張もあったらしく、冷や汗も含めた嫌な汗を掻いた。
セーターの袖を肘の辺りまでめくり上げ、窓を開ける。

「おーい、釘そっち余ってっか?」
「えーイヤ、こっちピッタリだわ」
「あ、じゃあアタシ行ってくるよー。 尾形と一緒にv」

・・・猫が1匹、肩から落ちた。



「愉快・・・v」
「・・・ホントに楽しそうだな・・・」

指に食い込むビニール袋を持ち直して尾形は辛うじて笑った。
男共の色んな感情に満ちた目で見送られ、2人で買い出しとなった。

「ホラホラ、早く戻んないとみんな帰っちゃうよー」
が出てる限りそんなコトはないって・・・」

思わず溜息が出る。
それが楽しいのか何なのか、はさっきから笑ってばかりだ。

「ふふ、文化祭の準備って楽しいね」
「・・・・・・」
ちゃんは格好いいし、尾形は面白いし」
「面白くない」

「・・・・・・あのさ」
「何?」
「・・・あのですね、今日の準備この調子だと7時ぐらいまで余裕でかかりそうじゃないですか」
「うん」
「・・・さっき・・・家から電話あって・・・遅くなるって言ったら即行帰ってこいと言われましてな」
「じゃあ早く帰らないとやばくないか?お前んち厳しいんだろ?」
「うん・・・・・・」
「?」

嫌な、予感がした。
についての嫌な予感は、嫌になるぐらい良く当たる。



「泊めて」



「・・・・・・無茶言うな」
「だってちゃんち泊めてって言ったら無理って即答されてさぁ。でももう言っちゃったんだよね!ちゃんち泊めてもらうって!」
「ちゃんと許可貰ってからそう言うこと言えよ!」
「だって帰りたくないんだもん!!」
「・・・・・・」

確かにはお祭り娘だが。
何をそんなに執着することがあるだろう。

「・・・さぁ・・・何言ってるか判ってる・・・?」
「・・・重々承知ですよう、お馬鹿発言してるって判ってるさ」

ふん、と膨れっ面を作っては顔を背けた。尾形は溜息とも何とも吐かない溜息を吐く。

「だって・・・尾形にしか頼めないんだもん」

これから教室に戻ることを考えて、尾形は納得して今度こそ溜息を吐いた。
そのまま何も言えず、の方もそれきりに何も喋らない。




「ただいまぁ〜」
「あっお帰りさん!」
「大丈夫!?寒くなかった?」

完璧尾形は無視の方向で行くらしい。見事な団結力に、尾形はドッと疲れを感じた。
さっきのセリフもずっと頭の中を渦巻いて、余計に疲れを感じさせる。

「お疲れ尾形」
「サンキュ

唯一言葉を掛けてくれたが自然な動作で荷物を受け取ってくれた。
疲れた足取りで自分の荷物に近付き、作業のため前方に固められた机の影に入った。
携帯を取りだして何処かに掛ける。その声は妙に疲れ切っていた。

「作業どれぐらい進んだのー?」
「大分進んだよ、ホラ」
「あっスゴーイ!骨組み完成したじゃん!」

暇な方の耳からの声が飛び込んでくる。
微かな自分の感情を感じながらも、尾形は電話に集中した。



「今日はもうちょっとやってー・・・」
「田中、俺先帰る」
「えぇ?」
「ちょっと家で用事。明日又雑用でも力仕事でも何でもやるよ」
「おい尾形っ・・・」

止める声も聞かず、尾形は軽く手を振って教室を出ていく。
と目を合わせ、が苦笑した。

「・・・苛めすぎたかなー」
「アイツどうしても苛められキャラだからなー」

の手前そうとしか言わない。否、言えない。
ぐったりと脱力したは、の方へ近付き彼女にもたれ掛かる。

「・・・プゥ」
「大丈夫か?」
「当たって砕けてみました」
「すまんねー、ウチ今日はちょっと」
「ううんいいの。ちゃんの愛だけで十分v正直に帰って怒られることにする」

でもヤだな、
が嘆いてに抱きついた。

「あっまたそーゆーコトしてるっ!!」
ッお前さんとるなよっ!!?」
「やぁねー、アタシとはもう心も体も繋がってんのヨ!」
「ぎゃぁ〜っ!!」
さぁん!!」


    ♪


不意に響いた音楽に、教室中が一気にしんとなる。
着メロだと一発で分かる音楽に、皆は戦闘体制に入った。誰かが廊下をチェックする。

「あっゴメンアタシだ!」

が急いで鞄に駆け寄った。急ぐ余りに手が焦って、なかなか携帯が見付からない。
メールではなく電話の方に設定した曲なので、向こうが止めるかこっちが操作するかしないと延々と鳴り続ける。
色々と詰め込んである自分の鞄に舌打ちして、やっと携帯発掘。
ディスプレイを見てが一瞬止まった。

?」
「あっ・・・ゴメンッ」

は急いで教室の隅に駆けた。机をバリケードにする様に、隅っこにちょんと納まる。

「・・・も・・・・・・もしもし?」

小さいの声だけが教室に響いた。
妙な緊張感が教室を覆い、何故か他の生徒も動けない。

「えっ・・・え?あの・・・だって」

小さい声が動揺している。
の声はだんだん上擦っていき、小さい体はぎゅっと小さく小さくされていた。
少し興奮しているのか、しきりに手櫛で髪をとかす。

これは

そろそろとの方に近付こうとした男子に、がガムテープを投げつけた。

「・・・じゃあ・・・良いの?ホントに良いの?後悔しない?
 ─────・・・じ、じゃあそっちに行って・・・え? ・・・えっ嘘ッ、そんな や、嫌じゃないって!」

教室中は相も変わらず動けない。
にもかかわらず、はそれに気付く気配すらない。
が苦笑した。

これは
この電話の相手は、

クラスメイトが一番考えたくない例だった。

「あっ・・・じゃあっ直ぐ自転車降り場・・・じゃない置き場までっ、降りるから!!」

彼氏ですかっっっ!!?



「ごめんっアタシ帰る!!」

説明は一切なかったが、それだけで十分だった。





「・・・鞄、開いてる」
「え?あ・・・あっ」

指摘されて、はやっと気が付いた。
急いで中を確認する。落としたモノは、多分ない。少なくとも財布と携帯は入っていたので大丈夫だろう。

尾形は先に立って歩き出した。
自分の通学用の自転車には乗らないで押している。

「・・・・・・・・・」

少しその背中を見送って、は走って追いかけた。そのまま背中に突っ込んで、止まったところの顔を覗き込む。

「・・・顔赤い」
「・・・ほっとけ」

クラスのアイドルをしっしっと手で追い払い、尾形は又歩き出した。
尾形の使う裏門の方から出れば、クラスメイトに見付かることはまずない。

「・・・・・・母さんが着替えどうするのかって」
「あぁ、アタシ始めからちゃんち泊めてもらう気満々だったから持ってる」
「・・・そうか」

用意周到だな、尾形が笑った。

らしい」
「・・・あんたらしいわ」

母さんに聞いてみたから、
だって。マザコンかお前は。

「ソッコーでごちそう作るって張り切ってた。覚悟しとけよ」
「誰に言ってんの?」
「遠慮しない女」
「言い過ぎ!!」



「あーあ・・・父さんも居ないし、俺ふたりに叩かれるのか」
「父さん居ないの?」
「今日はね」
「ふーん・・・何やってる人?」
「パイロット」
「あ、凄いじゃん」

ただいま、と尾形がドアを開けると、早速夕食のいい匂いがする。
部屋の奥からお帰りと聞こえ、時間差で母親が顔を出した。

「いらっしゃい」
「お・・・お邪魔します」
「気楽にしててね。小母さん娘が出来たみたいで嬉しいわー」
「ハイハイ、悪かったね息子で」





「あの、今日は有り難う御座いました」

礼儀正しいことに、母親はこちらこそ、と笑って言った。
もう尾形も布団に入ってしまい、と2人だけである。

「文化祭頑張ってね」
「はい」
「夜遅くなるようだったら、遠慮なくアイツに送り迎えさせてやって」
「アハハ、そうします」

今日待っていてくれたのも、この人の進言らしい。
自分の母親とは違うこの人に、がほっと息を吐く。

「・・・ひとつ聞いてイイですか?」
「何かしら?」
「・・・尾形って鈍いですか?」
「鈍い・・・わね」
「・・・・・・へへ」

の苦笑に、母親は優しく微笑んだ。





「おはよー・・・」
「あっ尾形おはよう!」

尾形は反射的に日常的なモノを探す。
食卓にはいつもの朝食、日常だ。

「・・・おはよう
「今何でアタシが居るのかって焦ったでしょ」
「焦ってな・・・・・・あぁ、思い出した」
「上等だなお前・・・」
「何だって客人のお前がエプロンしてるんだ・・・?」
「えっ!?やだっっ沙也香さん!宅の息子さんアタシが制服にエプロンな夢見たんですって!」
「脚色しすぎだろ!しかも夢じゃないしっ」

台所から母親の笑い声が聞こえる。
思わずしかめっ面を作った尾形は、そのまま食卓についた。

「じゃあ尾形、アタシ先に学校行くから」
「え?」
「普段登校してる時間にいなかったら変でしょ。じゃあねー」

エプロンを外して椅子に掛け、代わりに鞄を掴んでが玄関に向かう。
それを見送るために母親が台所を出た。

「沙也香さんお邪魔しました」
ちゃんも又いつでも来てね」

声のBGMに、尾形が味噌汁を口にした。
・・・味付けが違う。
まだ不明瞭な頭で考えて、視界の端にエプロンを見た。

「・・・・・・」

考えないようにして、尾形は朝食を詰め込む。

ちゃんっていい子ねー」
「・・・見た目はな」
「あら。アタシの息子は一応人を見る目があると思うんですけどね」
「・・・・・・」
「・・・朝ご飯。どう?」
「・・・・・・旨いよ」
「ふふ、言ってあげなさいよ」
「やだよ!」

ご馳走様を言うべく、尾形は若干焦って朝食をかっこむ。
昨日なかなか寝付けなかったため、遅刻とまではいかないがやや寝坊した。

「母さんちゃんみたいな娘が欲しいなー」



その日以来それが母親の口癖となった。

 

 


・・・ゴメン・・・何かまとまりなくて・・・。
どうも上手くまとまらずダラダラと長く・・・。
尾形さんのお母さんは「さやかさん」って感じがする(勝手)。
sink or swim =のるかそるか。一か八か。

021028

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