K
   E   E   P     O   U   T





『んっ・・・』





コンピューターを前に、兵士達は手を止めるしかなかった。
西園寺も其れを判って、何も言えない。否、言えない。


此の状況下に置いて、何をしているのか。


真面目だったはずの室内は一気に空気が変わる。
此まで何度か「担任」を遣ったことはあったが、こんな事は初めてだ。



『先輩・・・っ』



甘い声に、私情で首輪を爆破してやろうかと一瞬考える。

首輪に仕掛けられた盗聴器、其れが彼等の会話を筒抜けにさせているのだがこんな状況になるのなら今直ぐにでも取り外したくなった。
自分がどうのよりも、兵士達が役に立たない。
現に数人席を立ったり。
西園寺は大きく溜息を吐いた。

机の上の書類を手にとって数枚捲る。それは「参加者」の資料。
其の中の2枚をピックアップして左右に並べて見た。


何か遣らかしてくれるだろうとは思ったが、まさかこんな事とは。






「大人」が壊れたのか「子ども」が壊れたのか。






世間に知れる「バトルロワイヤル」、通称BR法。






今回の対象者は、武蔵森学園中等部の、サッカー部。





「あっ・・・先輩」
「あんま声出すと外に聞こえるぜ?」

からかうように三上が笠井を見上げる。

「誰の所為だとっ・・・ッ・・・・・・こんなトコに誰かが突っ込んできたらどうするんですか・・・」
「イヤ突っ込んでンのは俺だけど?」
「・・・・・・・・・」

呆れた目で笠井は三上を見下ろした。
三上が笑って少し動いて、笠井が細く声を漏らす。

「・・・別に、イイんじゃねぇ?その場合ってやっぱ腹上死になんのかな」
「知りませんよ・・・ッ」
「いっ・・・ツ」

笠井の足が三上の足に触れて三上が呻き声を洩らす。
慌てて笠井が自分の足を引き寄せた。


怯えきった後輩に打たれた、足の傷。
掠り傷ではあったのだが、笠井の応急処置で対応出来る程軽傷と言う訳でもない。
多分、三上は覚えてもいなかった後輩なのに。
名前も知らない「仲間」に、三上は大人しく撃たれて遣った。


嗚呼馬鹿だな、と、思った。


「大丈夫・・・ですか・・・」
「まぁな・・・」
「・・・運動・・・しない方が良いですよ・・・」
「だから笠井が上なんだろ?」
「あっ・・・ッ・・・巫山戯ないで下さいよ・・・ん」




「・・・首輪やらし」
「先輩もっ・・・同じじゃん・・・」

笠井の白い指先が三上の首に触れる。
首輪に沿うように、指が滑った。

「・・・笠井」
「何・・・ですか・・・」



「折角隙だらけなのに殺ンねぇの?」



「っ・・・!」






動く


西園寺達に微かに緊張が走る。

『・・・先輩』
『俺はお前と一緒に死んでも良いけど?』
『・・・俺は絶対嫌ですね』
『は、言うと思った』

「ふーん・・・流石三上君ね」

資料に貼り付けられた、生徒手帳に貼り付けられている様な証明写真を西園寺は指先で弾いた。
妙に澄ましていて、今の彼と一致し難い。

『お前さぁ、殺気、出てんの判る?』






「・・・一応隠してたんだけど」
「残念。俺殺気は体で判るんだよなぁ、慣れたっての?」



「へぇ・・・流石・・・2年前の優勝者ですね」



笠井が指に力を込めた。

「・・・窒息死って汚いんだけど」
「へぇ。俺の兄さんはどうやって死んだの?」
「・・・『笠井』は・・・俺が殺した・・・」
「そう・・・どうだった・・・?」
「笠井先輩は・・・俺に・・・生きろと言った」

笠井が一瞬力を緩める。
三上が自虐的に笑った。




『三上、死ぬな』




耳に声が甦る。
よく通る、綺麗な声が。
今でもゾクリとする。
えも言われぬ感覚が三上の体中を占めた。



「・・・笠井、話す。話させてくれ。その後殺しても良い、話したいんだ」
「・・・俺は・・・聞きたい事なんか・・・」
「イヤ・・・俺・・・引き伸ばしてきたけど、先輩に頼まれてたんだ」

笠井は言葉をなくす。
首に掛かった指は既に力は入っていない。

「・・・取り敢えずどけ」

最早快感など感じる訳がない。











「先輩」


笠井先輩  

俺は密かに  

イヤ  

先輩は知ってたけど  

俺は

先輩が好きだった


「先輩」
「・・・三上か・・・?」
「先輩」
「・・・お前ねー・・・男は・・・滅多に泣くもんじゃねえぞ・・・」

視界が涙で沈む。
先輩が見えない。慌てて袖で拭った。

「先輩」

何も言えない。
言いたいことがあるのに。

先輩の半身は赤い。
真っ赤に染まって、動けるとか動けないとか言うレベルじゃない。

「・・・三上」
「・・・先、輩」
「三上、俺には、弟が居る。知ってるよな・・・」
「は、ぁ・・・い・・・」


「が・・・頑張れって・・・伝えて」


口端から血が。

「せっ・・・先輩・・・あっ怪我っ・・・」
「バカかお前・・・清田も大崎も見ただろ・・・この血じゃ死んだも同然だ」
「先輩ッ、喋んな・・・っ」
「三上生きろ」
「・・・・・・」
「い・・・生きて竹巳に」


あぁ先輩

先輩

何処行くんだ?

俺も行きたいのに


「三上」
「やだ、先輩絶対」


「三上、俺を殺して」


先輩


「もぅ・・・これで生きてるほうが辛いんだよ・・・」


先輩


「・・・痛い・・・?」
「死にそうにいてぇ・・・あ、死ぬか」
「笠井先輩」
「・・・なぁ・・・頼むよ・・・」



一度も使ってない武器を構えた。
心臓に押しつける。



「三上、死ぬな」
「ずっと先輩のコト見てた」
「・・・三上」



「先輩、会ってくれて有難う」











「は・・・先輩 ・・・俺2年も言えなかったよ・・・」
「・・・嘘だ・・・」
「そう思ってもイイ・・・生き延びる為の俺の言い訳かもしんねぇよ?」
「嘘だ」




「笠井」




「・・・三上先輩は嘘吐きだ」

「ああ」




「竹巳」




「!!」




「頑張れ」






三上は手を伸ばして側に置いてあった其れを握らせた。
可成小型の、銃。三上の支給武器だ。






「てゆーか、殺して」





「・・・・・・三上先輩」

「・・・其れ、俺が笠井先輩殺したのと同じ種類なんだよな」

「!!」

「笠井先輩の支給武器だったんだけど・・・あぁ・・・俺のは探知機で・・・片っ端から逃げてたんだよ・・・人の反応あったら・・・」
「・・・・・・・・・」
「あぁでも、初めからそんな武器持ってたら俺多分乗ってたなぁ・・・」
「・・・此と同じ銃で・・・兄貴を?」
「そう・・・」
「・・・何処を?」

「心臓」




三上が言うのと同時に笠井が構える。





「イイよ、殺せ」
「・・・俺と居たのは、何の為?知ってたんだろ?」



「・・・しゃーねーじゃん・・・似てンだもんよ・・・」



「─────バイバイ」



「・・・ああ」











「三上亮、死亡確認しました」
「そう」

西園寺は立ち上がってマイクを手にする。
何となく、外を見て話したかった。
兵士がけたたましい音楽を掛ける。



「・・・さて、笠井竹巳君。優勝御目出度う」









「・・・は・・・?」

『・・・放送聞いてなかったのかしら?そう言えばメモは三上君が取ってたわね。
 駄目よ、憎んでる相手を信じちゃ』

「・・・ゆうしょう・・・?おれが・・・・・・?」




何で。

誠二とか、キャプテンとか、居るでしょ?





『禁止エリアは全て解除するわ。貴方は何処も怪我してない様だから、歩いて学校まで来なさい』





既に事切れた三上の上で、笠井は只呆然と宙を見詰めた。











「何も・・・知らないのね」
「・・・あの・・・絶対可笑しいですよ。首輪が壊れたとか、壊したとか、」

焦点が合ってない。
笠井の様子に西園寺は溜息を吐いた。

「貴方の知らない所で、三上君は着実にチームメイトを殺していったわ。
 ・・・其れこそ、2年前の様に躊躇いもせず」
「なん・・・で・・・・・・」
「さぁ?
 貴方が殺しちゃったから真意は訊けないけれど、彼は彼なりに貴方を愛していたんじゃない?」
「・・・だって・・・・・・イヤ、違うよ・・・兄さんを守りたかったんだ・・・
 先輩が守ってたのは兄さんだよ・・・」

「・・・まぁ・・・何にせよ、今回の優勝者は貴方よ。
 此からは転校して貰って、今回の事は一切誰にも話さすにおく様に。色々大変でしょうけど・・・」








「頑張ってね」








西園寺が静かに部屋を出て行った。
出発前に辰巳が死んだ、この教室。
辰巳だった物は既に片付けられていた。



「・・・三上先輩」



呼んだら出てくる気がした。
ひょこっと現れて、お前何ぐずぐずしてんだよ、何て笑って、




「・・・俺・・・先輩に復讐する為にサッカー始めたんです」

誰も居ない教室で笠井は喋り出した。

「合宿に行ったっきり・・・兄さんは帰ってこなかった」


家に帰ったら
母さんがいきなり泣きついてきた
幾ら聞いても理由は言わないで
その日から父さんも居なくなった
母さんは壊れてしまった
兄さんは帰らなかった
その頃には何が起きてるのか判っていた


「偶々・・・噂だったんですけど耳にしたんですよ、三上先輩の事」


バトルロワイヤルの優勝者が武蔵森に居る


「もう馬鹿みたいに躍起になって調べました。可成危ないこともあったし。
 それに会ってどうするとか具体的に考えてなかったし」

だけど

「あの人が兄さんを殺したのかもしれないと思うと」



「・・・それで・・・サッカー部だって事が判ったから・・・必死で練習したんです・・・
 気を紛らわすためにやってたピアノもそっちのけで・・・武蔵森に入れるよう、サッカー部に入れるように必死になって」

貴方に会う為






・・・三上先輩・・・



頑張れだなんて、残酷すぎる・・・・・・













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