「嘘吐きました」
「は?」
「我慢なんか出来ない」

自分へ渡してくれるのであろうと思われるささやかな花束を手に、笠井は少し距離をおいて立ち止まっている。
卒業式がついさっき終わった。とは言え寮を出るまではまだ少しあり、三上はいまいち実感がない。
卒業アルバムは先日貰ったので今日の荷物はさっき貰った卒業証書と、これから貰うはずの花束。人気のない教室、窓の外では渋沢が同級生から後輩から教師からもみくちゃにされていた。

「────笠井?」

ここ数日は以前と何も変わらずに過ごしてきた。軽口を叩き触れ合って 互いに追いつめて。

「…なんで卒業しちゃうんですか」
「…」

近付いても大丈夫だろうかと、三上はそっと近付いた。
ゆっくり手を取って引き寄せると笠井は数歩寄ってきて、そのまま花束が渡された。受け取る。毎年恒例の、部活からのものだろう。

「────お前、また別れろとか言う気じゃ」
「やだ、」
「は?」
「毎日会えないとやだ…」

うつむきがちにこぼれた言葉。毎日会ってたのに、それが当然だと思っていたのに。はたりと笠井のブレザーに涙が落ちる。
何?勉強の役目を終えたばかりの三上の頭は切り変わっていないのか、それを理解してくれない。
どうして泣くのか、考えたら分かりそうなのに。泣くなんて思ってなかったせいか。だって3年前の卒業式だって笠井は泣かなかった。

「先輩は知らないかもしれないけど俺はあんたがほんとに好きなんだよ」
「笠井、」
「俺から先輩取ったら何も残ってないんだよ…」
「かっ…」
「絶対好きになると思ったから好きになりたくなくて、だからそんなに好きじゃないふりだってしてたつもりなのに、あんたがどんどん俺の中に入ってくるから」
「……」
「もう俺だってどうしたらいいか分かんない…」

笠井、かすれた声になって三上は少し焦りながら、困って口ごもる。
もういいから、どうにか出た言葉はそれ。

「もういいから」
「…」
「顔上げ、いや上げるな」
「え…」
「上げんなって」
「わっ」

笠井が上げた頭を押さえつけられ首が鳴る。だけど一瞬見えた表情、涙も止まる。

「…何で照れてんですか」
「てっ、照れてッ…ない」
「説得力ないよ」
「……」

真っ赤な顔で、三上は顔を見られないように笠井を抱きしめる。
耳まで熱い。こんなときなのに嬉しい、なんて。

「何で、」
「…お前が、いきなりそんなこと言うから」
「…俺が照れるなら分かるんですけど」
「うっせぇよ。…ンなにお前に好かれてるなんて思ったことねーっつの」
「…好きです」
「分かった」
「好き。絶対好き、一番」
「分かったって!」
「一生」
「…」
「あんたがジジィになって可愛いおばあちゃんち住んでたって好き」
「…お前それ一生分ぐらい好きって言っちゃったんじゃねーの?」
「言ったかも。明日からもう言わないよ」
「可愛くねーの」
「可愛い癖に」
「可愛くねーけど好きだ」
「…ハズカシー人。今が照れるところですよ」
「照れねぇな」
「見てやろ」

顔を上げて、目が合う。顔はそうでもないけど耳は赤い。三上を笑うと目尻を拭われる。

「…先輩が気持ち悪がっても遅いよ」
「上等だ」
「…」

初めてみたいなキスをした。ぎこちなくぶつかって、ふたりで目を見合わせて笑う。
仕切り直して、唇をぴたりと重ねた。

ガラリ!
急に戸が開いて、ふたりはびくりとして振り返る。もっと驚いているのは戸を開けたサッカー部員だ。

「う、わ…すいませんッ」
「あー、山川、いいから」

三上が頭を掻きながら逃げる後輩を捕まえる。笠井は我に返った様子で顔を覆った。今更照れてきたらしい。

「何だ」
「あ、あの、3年の集合写真撮るからって、探してて」
「分かった。ゴクロー」

ポンと肩を叩いて三上は廊下へ出ていった。笠井が何かうなってしゃがみ込む。わずかに残る花束の匂い。

「あ、か、笠井 俺」
「あー…いいよ、どうせ先輩卒業だし」
「…」
「…山川なら誰にも言わないと、思うんだけど」
「…言わない、つか誰にどう言えばいいか分かんねえ」
「ハハ、サンキュ」
「……名前」
「え?」
「三上先輩、俺の名前知ってた」
「…そうだよ。先輩殆ど全員知ってる」
「マジで?」
「そう。凄いよ、いらないことばっかり覚えてるんだよ。────だから俺のことを嫌いになったって、俺のことを忘れない」
「…笠井、」
「どうしよう俺、」

今 凄い好きだよ。
この瞬間だけかもしれない。明日になったら夢から醒めて、何もなかったことになるかもしれない。
わけもわからないのに脈打つ心臓がうとましい。いつまであの人にどきどきするんだろう。

「何か、好きとか大好きとかじゃなくて」

もうそんな言葉じゃ言い表せない、大嫌いだよ あんな人。

 

 


笑い声と涙とその他大勢に捧ぐはじまりの歌────…と言うアオリ?みたいなものが最後に書き足してあった(恥)。
一時のテンションに身を任せて、一気にガッと書いたので夏─冬間が空っぽです。みかみあきらのお題が間ぐらいのつもり。
多分日記で言ったことあるんじゃないかな、の三笠別れ話でした。
はいそこの期待外れの人〜、がっかりもしょんぼりもごめんなさい。ここまで目を通した方を崇めます。

050629

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送