まぁそんな日も、あるでしょう。


あ る 日 。


「佐藤くーん、時計読めるかな?」

極上のスマイルで翼は言った。
たまたまそれを見かけていた男が一瞬足を止める。
シゲがそれを追い払った。

「と・け・い!待ち合わせ時間何時だったか言ってみ?」
「1時」
「今は?」
「1時20分」
「シゲが来たのは?」
「たった今」
「・・・・・・・・・・・・」

翼は無言でシゲを睨みつける。

「そんな怒らんといてぇな」
「怒る」
「ええやん20分ぐらい。人生に比べたら小さいモンや」
「ンなモンと比べんな。次から遅刻1分ごとに100円罰金」
「もう次のこと考えとんの?そんなに俺に会いたい?」
「ちげぇよ馬鹿」
「関西人に馬鹿ゆうたらあかんでー」
「頭撫でるな!」

身長差を利用して人の頭を撫でてくるシゲを翼は冷たく突き放す。

「映画見るって来たのにもう始まってんじゃん!次の時間だと俺今日塾あるから見れないんだよ!」
「ンなモンサボりー」
「サボれるか!」
「しゃーない、アイスでも奢るから許して」
「・・・ダブル」
「セコいわこの人ー」
「だから頭撫でるな!」

シゲは頭を撫でるのをやめた代わりに翼の手を取る。
何か言おうとする翼にシゲはにっこりと笑いかけた。

「フツーのカップルにしか見えへんて」
「・・・だから嫌なんじゃん」

それでも翼は別に手を振り払うでもなく、只歩くシゲに引っ張られるように付いていく。
その様子はやっぱり普通のカップルにしか見えなかった。




「バニラとチョコのダブル」
「お前っ適当すぎ!!」
「冗談やって。お姉さんちょっと待ってなーv」

お姉さんとはとても呼びづらい。
販売員のおばさんにシゲが愛想振りまく。

「・・・グレープフルーツ」
「だけでいいん?」
「いいよ」

ココの美味しくないし、と翼が小声で付け足す。
シゲが苦笑しておばさんに笑った。

「んじゃグレープフルーツとブルーハワイ」
「うわっ、それにする?スゴイ色」

おばさんが笑いながらコーンにアイスを乗せる。
お世辞にもそれは綺麗とは言い難い。翼は少し眉をひそめてそれを受け取った。
体に悪そうな青ののったコーンを受け取ったシゲを見て、翼が一言。

「三原色」

珍しく赤のシャツなど着ていたシゲは、意味に気付いて苦笑した。
金髪を黄色と言いたいらしい。

「舌青くなりそう」
「多分なるでー」

風船を持った子供とすれ違う。
シゲがそれを一瞬目で追った。

「どうした?」
「何もー・・・」



「ちょおココで待っててな」
「はぁ?」

味気ないコーンを胃の中に収めて、シゲは翼をおいて何処かへと歩いていく。
いつもよく判らない奴だからいい加減慣れたと言えば慣れたのだが、なんの用事か知らないが普通一緒に行かないか?
未だうっすらと口の中にアイスの味が残る。
ここに居ろと言われたが、こんなソファしかないところでいつ帰ってくるか判らない奴を待ってられない。
見付けるだろうと勝手に決めて、翼はぶらりと本屋へ向かった。

「あ、三上」
「・・・椎名?」

少し目を細めて三上が翼を見る。
意外な人物と出会った。面白がって翼は三上に近寄る。

「何してんのこんなトコで」
「罰ゲーム」
「ふーん、何か買ってこいとか?」
「エロ本。それもご丁寧に誌名まで指定された」
「・・・誌名を知ってるところに突っ込むべきだよね?」
「いや中西だしな・・・」
「それで、勇気が出なくて買えないと」
「ちげぇよ。ねぇの」
「ふーん(つかあったら買うんだ)」

そうは言う三上の立っているのはパソコン雑誌の本棚の前だった。
適当に手に取った雑誌をパラパラとめくり、本棚に返す。

「お前は何してんの?デート?」
「ばっ・・・」
「ハイハイデートな」
「・・・お前はどうなのさ。休みに一人?」
「うち?うちのお姫様は郭レンジャーと浮気中」
「は?」
「郭英士と釣りに行くんだと」
「・・・・・・オンナノコでも釣り行くんだ」
「は?」
「え?」
「・・・・・・余計なこと話したかもしんねぇ・・・何?佐藤そう言うこといわねぇの?まずった」
「・・・あぁ・・・ナルホドね」

オトコかと翼が呟いた。

「シゲは知ってるんだ」
「前2人でいるとき会った。お前だったら一緒に歩いてても違和感ねーのにな」
「僕としては違和感ないことに違和感だけどね」
「お前、佐藤は?」
「知らない。どっか行った」
「ふーん」
「まぁ浮気されるよりましだけどね?」
「浮気じゃなーいー・・・と思いたい。・・・つかいっそ椎名、どっかいかねぇ?」
「は?」
「だって佐藤どっか行ったんだろ。オトコ一人でぶらぶらしてんのも虚しいしな」
「特にパソコン雑誌の前なんかにいるとオタク臭いよね」
「お黙り」

まぁいいよ、
悔しいながら三上を見上げて翼は笑った。

「悲しいオトコを慰めてやろうじゃないの」
「あ、マジで?竹巳さん最近夜遊んでくれねーの」
「・・・僕未だ犯罪者にはなりたくないんだけどどうしても死にたいならお相手するよ」
「・・・お前笠井以上に冗談通じねぇな」





「カシスがいいな」
「・・・いや・・・お前さっき食ったって言ってたよな?」
「おごりで食うから旨いんだよね?」
「・・・・・・・・・」

アイスの並んだケースの前で、翼は強制的に三上を引き留める。
今度レジに立っているのはバイト風のお姉さん。
一見カップルにしか見えないふたりを羨ましそうな目で見ている。

「・・・グレープフルーツ」
「俺もカシスね」
「!?」

不意に増えた声に三上は振り向いた。
レジのお姉さんは乱入者を気に留めず、コーンを3つ出してくる。

「か・・・・・・笠井・・・?」
「こんにちは先輩ーまさかこんなトコで会うなんて奇遇デスねーデートですかーー」
「思いっきり棒読みだしッ」
「えー何がデスカー?」



悔しいながらに。

やっぱりオンナノコが隣の方が様になるなと思ってしまった。



「お姉さん俺巨峰なーvv」
「って佐藤!!」

にこやかに笑顔振りまきながらケースのガラスを叩き、シゲがお姉さんに注文をする。
突然現れた金髪に戸惑いながらも、いい男ばかりが出てくるので上機嫌なお姉さんは巨峰ですねー、と復唱する。

「シゲ!お前何処行ってたんだよ!!」
「ってーか何で姫さんコイツと一緒におんねん。むっちゃ探したっちゅーに。ホイ、プレゼント」
「・・・は?」

シゲが翼の手の平に押しつけたのは1本の凧糸。
引力に逆らって上に伸びている紐を目で追うと、白い浮遊物体が翼の頭上を漂っていた。

「・・・シゲ・・・これは・・・・・・」
「うん?カワイイやろ」
「イヤ・・・てゆーか要らないし」
「遠慮すんなや!」
「してない!」
「はいっカシス2つグレープフルーツ、巨峰の4つですね。代金は」
「あ、三上宜しく」
「ごっそーさん」

いつの間にかコーンの上に乗っけられたアイスクリーム軍がレジ台に立ててある。
それぞれ自分が注文したモノを手に取ってその場を離れだした。

「うわっちょい待てお前等!本気で金ないっての!」
「エロ本買う金あるんじゃないのー?」
「椎名っ!!!」

笠井の疑いの目に三上が翼を睨みつけた。翼が笑いながら、白い風船を揺らして歩く。
やや遅れて三上が3人の後をついていった。

「三上らもデート?」
「らって何らって。別に俺等デートじゃないでしょ」
「いややわ姫さん照れんでエエのに」
「照れてない!」
「そういや笠井、郭は?」
「駄目になったって。だから誰かさんと遊んであげようと思ったんだけど中西先輩がオンナノコとデートって言ってたから」
「はぁ!?アホか。アイツの言うことまず信用するな」
「それ以前に三上先輩が信用されるようなヒトになってくれます?実際浮気中だったし」
「エッ!?姫さん浮気しとったん!?ひどいわぁ!!」
「「違う!!」」

三上と翼が上手にハモる。
一瞬視線を合わせて、翼が軽く溜息をついて口を開いた。

「何が悲しくて僕が三上なんかと浮気しないといけないわけ?そもそも浮気するには本当の相手がいなきゃいけないわけだし」
「俺が居るやないか」
「何のこと?」
「・・・姫さん酷いわ」
「そりゃ確かに椎名は可愛くて小さくて抱き心地良さそうかもしんねーけど口悪いしなぁ」
「・・・椎名さん気を付けてくださいね。この人に目を付けられたら最後ですよ」
「もしもし笠井さん」
「あ、名前」

不意に翼が笠井を指差した。

「あー・・・そうか、俺は誠二から話聞くけど初対面ですね。初めまして笠井です」
「あぁ藤代ね・・・椎名翼。宜しく」

「なんちゅーか・・・」

シゲが早々とコーンをかじりながら言う。

「ホモが4人集まっとるンも妙な話やな」
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」





「あ、判るそれ」
「だよねー?ちょっとはこっちの気持ちも考えて欲しいよね」

2人の後ろ姿を見ながら三上とシゲは微妙な心境にあった。
同じポジション(色んな意味で)の所為か妙に意気投合したらしい。恋人放ってひたすら語り続けている。
普段こんな話を出来る相手がいないからかもしれない。

しかし、さっきから彼等の口から出てくるのは互いの恋人自慢ではなく。
それどころかその逆で日頃の不満をポンポンと吐き出していた。

「・・・なんや・・・複雑やな・・・」
「まぁな・・・」


「ホント信じらんないよあの人」
「何、何かすんの?」
「・・・耳かして」
「・・・・・・うわっ最悪!とっとと別れることをお勧めする」
「笠井何言ったんだよ!!」

三上の声に振り向いた笠井が舌を突きだした。
翼と笑いあって先へ先へ歩いていく。

「・・・やっぱ椎名可愛いなー・・・」
「やらんでー、アレはもう俺んやから」
「いらねー。あんなンとずっと一緒にいたら胃に穴開く」
「そうでもないで?それなりに感度もイイしなー」
「・・・・・・・・・」
「あっ考えとる。どっちにしろやらんぞ。しかしお前等同じ寮やろ?エエなー何でもありやん」
「まあなぁ」
「一緒に風呂入ったりとかするん?」
「基本的に大浴場でむさいオトコ共と一緒にな」
「それはイヤやな・・・」


「何話してるんだろ」

ちらりと一瞬後ろの様子をうかがって笠井が呟いた。

「・・・ま・・・予想はつくけどね」
「ハハ・・・毎日会えないってどんな感じ?」
「さぁー・・・ぼくは毎日会えなくて良いんだけどね」
「何で?」
「依存するから」
「・・・・・・もうしてる」
「学年違うよね?」
「うん。三上先輩と卒業式泣くかどうか賭てんの」
「三上の方が泣くんじゃない?」
「アハハ!」
「郭は?どういう関係?」
「えー〜・・・あ〜・・・俺としては友達、何だけど。先輩に聞いた?」
「うん。浮気中って」
「しつこいなも〜・・・」
「・・・とか言いつつちょっと嬉しい?」
「・・・ハハ?」

中途半端に笑って笠井は返すが自分の体からドキドキ聞こえてくる。
翼が得意げに笑い返した。

茶化すぐらいの嫉妬心は思われてる感があって。

「・・・てゆーか、失礼かもしれないけどね」
「何?」
「椎名さんと先輩一緒にいるの見たときマジでオンナと浮気してるのかと思った」
「・・・まぁいいけど」
「何てゆうかさぁー・・・」
「・・・・・・」



スキだなぁ。




「・・・あーあ・・・姫さん風船飛ばしてもうたしなぁ・・・」
「何か意味あったわけ?」
「イヤ?無いけど?風船みたいやなって思っただけや」
「・・・椎名?」
「まぁなー。どっか行ってしまいそうやない?」
「・・・猫みたいな」
「そんな感じや」
「笠井も同じようなもー・・・あッ・・・ネコ!」
「猫がどないしたん?」

三上の声に笠井が振り返る。

「餌ならキャプテンがやってましたよー」
「そうか、」
「なんか中西先輩が手伝ってたみたいだけど」
「帰るぞっっ」

またネコーっ、笠井が不満げに三上を睨みつける。
三上はお構いなしに笠井の腕を捕まえてとっとと歩いていく。

「じっ・・・じゃあね椎名さんっ」
「うん、また電話する」

2人の背中を見送る翼にシゲが追いついた。

「あっ・・・しもた」
「何?」
「デートにならんかったなぁ」
「・・・デートだと思ってるなら遅刻しないでくれる?あ、もう時間だ。ぼくも帰んなきゃ」
「結局今日一日姫さんあっちの姫さんと話しとったな」
「何?ぼくと話したい?」
「出来れば体で語り合っ」
「バイバーイ」
「ああっ!」

歩き出した椎名をシゲが引き留める。
翼の目がじっとシゲを見返した。

「・・・なんや?エエオトコ?」
「帰るぞ」
「待てや」



ふっと一瞬。

軽く唇が触れる。



2人が離れてじっと互いの目を見る。
2人ほぼ同時にはっと気が付いて辺りを見回した。

「だっ誰か居なかったかなっ」
「だ、大丈夫やろ!!」
「・・・・・・・・・」
「姫さん?」

黙り込んだ翼の視線を追って、はたとシゲも動きを止めた。





ゴボウの突き出したスーパーの袋を下げた郭レンジャーと目が合った。




逃げるように翼が走ってその場を離れる。
後に残されたシゲを見て郭は苦笑し、何事もなかったかのようにシゲの前を通過した。


「・・何やったんや今日は」

 

 


・・・何だったんですか???

っていうか結構初めの方気に入ってたのにまとまらなくて隠す。かなり中途半端ですね。ぐは。
設楽とかも出してみる予定だったらしいです。挫折。

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