プ ラ ス チ ッ ク 爆 弾


「情報屋ゆうんはお前か」
「・・・・」

キャップの下に鋭い目。三上は露骨に顔をしかめた。
今日は朝から三件目。その質問は合っている様で微妙に間違いだ。
客人を目でカウンターに座らせ、三上は煙草に火に点けてからコーヒーを入れ始める。今度は客が顔をしかめる番だ。

「喫茶店やろ」
「情報屋の客は俺の客じゃねーよ」

それにしても店内で煙草を吸うか。
煙が上る。

「残念だったな、情報屋は昨日今日と出掛けてる」
「仕事中か・・・」
「いやデート中」
「・・・・」

客はやっと席についてキャップを脱いだ。
年は三上より下、但し外見で判断した場合。最近は出すものを出せばなんでも出来るので少し見たぐらいでは三上には見分けることは出来なかった。

「・・・急ぎならここより幾らか待遇のいい場所紹介するけど?」

コーヒーを客の前に置いて三上はカウンターの中の椅子に座る。
ここはあまり流行っているとは言いがたい喫茶店、普段はその一角に情報屋が座っている。今は助手兼恋人に奉仕中だ。

「・・・知ってる。渋沢のとこじゃろ」
「何だ。わざわざこっちに来るか?」
「あっちはサツと繋がり強いけん」
「・・・厄介事持ち込みやがって」

三上がイライラと吹かす煙草の灰がテーブルに落ちる。

「用件言ってみろ。俺もある程度の情報収集ぐらいは出来るから。但し前金十万、それからあんたの名前」
「・・・功刀一」
「・・・聞かなきゃよかった」

それはヒーローの名前だ。
国際的英雄功刀一。世界中を飛び回り悪党どもを捕まえる。
正体は賞金稼ぎと言う余り立派ではない身分だが彼は別格だった。

「今回は仕事は関係なか」
「賞金稼ぎに仕事も私用もねぇよ。・・・んで、何をお求め?」
「誰でもよか」
「は?」
「プラスチック爆弾作れる人間」
「・・・・」

机の上に差し出された前金の十万円。三上は煙草を上下に揺らす。

「・・・英雄が何に使うんだ?」
「それで呼ぶな。理由は言わなくていいはずや」
「そういうわけにもいかねぇんだ」

三上は煙草をシンクに捨てて冷蔵庫を開ける。
しばらく中を荒らし、捜し物が見つからなかったらしく今度はレジに向かう。無造作に詰め込まれたお札の隙間に磁器カード。

「こちとら一応公務員なもんで」
「・・・・」

三上が差しだしたカードを受け取って功刀は顔をしかめた。
それは政府発行の情報屋免許。正式には情報譲渡資格と言う。

「他当たる」
「まぁ待てよ」

引っ込みかけた前金を三上は功刀の手ごと引き留めた。
ぐっと顔を寄せ、声のトーンを落として囁く。

「条件次第じゃ受けてやらなくもねぇ。因みにここいらの情報屋は渋沢が仕切ってっから無免許探すのは面倒だ」
「・・・どんな?」
「基本的に情報屋は身内には甘い。お前が今日からここでバイトするなら受けてやる」
「・・・・」

功刀は三上を睨んだ。
三上は笑い返す。しかし無表情に近い。

「納得しさえすればお前の計画も手伝ってやらなくもない。用がなくなれば黙って出ていってもいい。お前に不利はあるか?」
「・・・お前に有利は?」
「至極簡単。俺はお前が気に入った」
「・・・・」

三上は金をそっと返す。

 

 

「何や」
「いや、いやいや。中学生のバイトみたいだよな」
「殺す」
「失敬」

功刀がコーヒーカップを振り上げたので三上は両手を上げる。
洗い物を新顔に任せ、三上は部屋のノートパソコンを引っ張ってきた。カウンターにそれを広げ、早速仕事にかかったらしい。

「適当でいいぞ、どうせ客なんか殆どこねぇから」
「・・・何で免許あるのに喫茶店なんかやっとるたい」
「つか免許は取れちゃっただけだし」

カタカタとキーボードが鳴るが功刀には何をしているのか予測もつかない。
しばらく食器の音とパソコンの機動音が店内に充満する。

「・・・ヒット。あー惜しいな、ウデいい爆弾屋が先週パクられてら。爆弾屋っつか爆弾魔だったしな。正規ルートは知り合いいねぇから横流しも難しいし」
「・・・・」
「口の軽い奴が居るけど?こいつは困るだろ」
「あぁ・・・」
「先月爆弾テロあったからキツいな。・・・もうひとつ取引するか?」
「は?」
「理由聞かしてくれれば俺が作ってやる」
「・・・・」

功刀は水を止めた。パソコンが唸る。

「・・・攻撃されんように」

功刀がゆっくり口を開く。

「俺には賞金がかかってる」
「あぁ」

ヒーローと呼ばれる所以はそれだった。
世間的に公表されてないが功刀には賞金がかかっている。それ故賞金を受け取りに行くことが出来ない。だから世間的には無償で悪を倒す英雄という身分だ。
賞金をかけられているが公表されていないというのは主に政府の要人。情報屋なんかはそれ位の情報は基本だ。

「政府が欲しいものは頭の中にある。ばってん渡すつもりはなか」
「だろうな。それで生きてることが条件か。そりゃ爆弾持ってりゃ近寄ってこねぇわな、死なれちゃ困るんだから」
「そうや。前は海外に出てれば平気やったんに、最近は世界単位で指名手配や」
「ご苦労様で。あのさ」
「何、」
「ここにいれば爆弾も武器もいらない」
「・・・・」
「俺等は二度と仕事にかけた命を奪うような真似はしないと誓ったから」
「・・・誰か死んだんか」
「生きてるけど仲間が死にかけた」
「・・・・」
「別に信用できないならいい。出ていくなら爆弾作るし、ここに残るというなら置いてやる。いつもはあの角に本物の情報屋がひとりとその助手兼ここのバイトがひとり」
「・・・・」
「俺はお前にいてほしいけど」

功刀も三上も手を止めたままだった。
水音は消え、微かな機械音。

「・・・・」
「・・・つか、まだ気付かねぇの?」
「は?」
「・・・第三訓練部隊登録番号二三六番三上亮」

三上が機敏な動作で立ち上がって敬礼をした。反射的に功刀の背が伸びる。

「警察学校同期だったんだけど?登録番号二五一番功刀一」
「あっ・・・どっかで見たことあると思ったら貴様か!賞金首かと思っとった」
「あ?いい度胸だお前」
「懐かしかー、お前学校やめてから一応心配したんや」
「一応かよ」
「お前が抜けた後に事件がおきてな、お前容疑者だったんやぞ」
「は?事件って」
「・・・そのネタがこん中」

功刀は指先で自分の頭を叩く。
溜息を吐いた三上を笑って功刀は洗い物を再開した。

「ま、これで信用度は上がるだろ」
「寧ろ下がった」
「おい」
「・・・厄介事は面倒なんやろ?」
「功刀の為なら」
「・・・相変わらずやな」
「そうそう性格なんて変わんねぇよ。よし、酒出せ」

三上はノートパソコンを閉じて立ち上がる。
そのまま店の出入口へ行きCLOSEの板を下げた。動かない功刀に代わってカウンターに入り冷蔵庫から酒のボトル二本を出す。

「ん」
「・・・・」
「ここにいろよ。な?」
「・・・ホント変わらんな」

功刀は笑って、差し出されたボトルを受け取った。

 

 


と言うわけで(?)
情報屋はとことんカプを間違えてるので三カズでいってみました。
三上さん警察学校だって!何やってんの!
カズさん語が分かりません。

030928

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