錆 の 決 意


ドアが押し開けられ、三上はその音に気付いて店内を見回した。

普段扱き使っているアルバイトの姿は見当たらない。舌打ちをしたのを来客は笑ってカウンターに腰掛けた。

「相変わらずだなダメ店長」
「・・・よォ、久しぶりだな尾形」
「久しぶりに暇なもんで」
「嫌味か」
「嫌味だ」
「冷めたコーヒーしか出さねぇぞ〜」

三上は面倒くさそうにコーヒーメーカーに残ったコーヒーをカップに注ぐ。有言実行の三上に苦笑しながら、尾形はコーヒーに砂糖を落とした。

「・・・なぁ?三上のここ、てんとう虫の探知機つけたんだって?」
「流石にそういう情報は早いな」
「三上が作ったんだろ?」
「まぁな」
「流石だね〜」
「褒めても何も出ねぇぞ」
「うん、俺の勝ちだからね」
「・・・・・・て・・・テメェ・・・」

尾形が手の平を開いて三上に見せる。そこに載っているのはスタンダードな形の、やや大きめではあるが盗聴器。見せびらかす尾形に三上は拳を固める。

「でも探知機ってなかなかいいな〜、俺も作ろうかな」
「盗聴器作ってるやつがンなモン作ったら矛と盾じゃねーか」
「あ、それもそうか」

冷めたコーヒーを口にして、砂糖が溶けていないのか少し苦味を覚えて尾形は顔をしかめる。三上は尾形から受け取った新型らしい盗聴器を手にとって見た。若干大きいのはクオリティを乗せているからか。
しばらく何か話題を探すように店の奥を見たりしたが何も思いつかなかったらしく、手持ち無沙汰にカップを持ち替える。

「────ンで? お忙しい修理屋尾形がわざわざウチに何の用だ?」
「・・・・」
「暇じゃねぇだろ?」
「そうだね、俺今携帯切ってるんだけど、帰ったら叩かれそうだなー」
「面倒くさそうなヤマならウチを巻き込むな、渋沢の方に行けよ」
「渋沢なァ・・・言っちゃ悪いけど、俺 ちょっと信用してないんだよね。組織がでかいのってさ、怖いよ」
「・・・つーこたァ面倒なヤマなのかよ」
「面倒かも」
「・・・・・・」

三上はカウンターの中に持ち込んでいる椅子に腰を落とし、がしがしと頭をかいて煙草を探す。

「お前本人は地味なくせに周りばっかでけぇんだよ、ぜってー俺まで巻き込まれる規模の」
「辰巳は今日は上?」
「上だけど、さっきふたりでいい感じになっちゃってたからしばらく仕事しねぇんじゃねぇか?」
「えー・・・何それ、ふたりって何?」
「・・・いや、だから笠井と」
「え?何、あのふたりそういう関係だったの?」
「遅ッ! テメェどんだけ興味のあること以外に疎いんだよ」
「そっか・・・やっぱり時間かかるもん?」
「辰巳なげェよ〜」
「・・・行ったら不味いかな、人命に関わるかもしれないんだよね」
「・・・わざわざ依頼に来るような人命だったら行ってこい、いや俺が行く。見たいし」
「・・・じゃあ待ってる」

三上がこんなときばかり俊敏な動作でカウンターを乗り越え、楽しげに店を出て行った。土足で踏まれていった可哀想なカウンターを、残された尾形は丁寧に拭いてやった。

 

 

 

「ァ・・・」
「仕事だーッ!!」
「ぎゃああッ」

突如部屋に飛び込んできた三上に笠井は飛び上がる。仕事の一言で我に返った辰巳は笠井の服を離し、ベッドを降りて三上に向き直る。ベッドに落とされた笠井はのそのそと起き上がり、服を直しながら三上を睨んだ。
普段は三上の喫茶店の一角を借りて情報屋をやっている辰巳の本来のスペースは、喫茶店の入っている古いビルの最上階、コンクリートで作られた箱だ。部屋というほどの大袈裟なものではなく、倉庫のような作りである。

「あれ〜、残念…ぐちゃぐちゃの笠井見たかったんだけどなー」
「死ね!」
「依頼は?」
「内容は知らないけど尾形が来た」
「尾形が?自分で?」
「そう」
「・・・笠井、俺」
「・・・俺も後で下降りますー」
「・・・・・・」
「俺が代わりに相手してやろーか?」
「店長はプリンに頭ぶつけて死んで下さい」

伸びてきた三上の手を振り払い、笠井は辰巳の腕を引く。

「・・・わ、悪い」
「・・・・・・いや・・・いいです、ごめんなさい。すぐ降りますね」

しばらく辰巳を見たあと笠井はゆっくり手を離し、辰巳を三上と一緒に送りだす。彼は躊躇いつつも部屋を出て行った。

「あーあー、笠井の濡れ場見たかったなー」
「・・・尾形、どんな様子だ」
「・・・はッ・・・やばいんじゃねぇの?知らねぇけど、落ち着きないし」
「そうか・・・」

ビルの外の螺旋階段をふたりで降りる。老朽化の進んだ階段はそろそろ危ないかもしれないと思いながらもそのままだが、この屋上に上るのに他に階段はない。直さなければそのうち屋上へ上れなくなるかもしれない。

「おい連れてきたぞ・・・って話中か」

店に帰ってきた三上は携帯で話中らしい尾形を見て声を抑える。辰巳が中に続いて様子を見た。
尾形が振り返り、辰巳と目が合う。その目に見えた、一瞬の揺らぎ。三上もそれを見たのか、静かにカウンターに入って裏から盗聴器を出してきた。設置するには大きすぎるものだが録音が出来る。そのマイク部分を黙って尾形に渡した。

「────知りません、うちにはそんな人雇ってない」
『  』
「・・・嘘だ、待っ・・・切れた」
「・・・ちょっと遅かったか。お前自分の盗聴器は?」
「録音出来ないから」
「相手は?」

辰巳がいつもの席に戻り、机に残したノートパソコンを立ち上げる。あっち、三上は黙って辰巳の方を指差した。

「あ、でも俺前金忘れた」
「急ぎならいい、世話になってるしな」
「・・・ありがとう」
「話せ」
「お前ら知り合いにマジにSMの人いる?」
「・・・詳しそうな奴はいるな。三上中西引っぱって来い、来た方が早いだろ」
「はいはい・・・笠井の仕事だろうがこれは・・・」

三上が面倒くさそうに店を出ていった。尾形は緊張した面持ちで辰巳の前の席に腰を落とす。

「俺は何をしたらいい?」
「・・・ごめん・・・ほんとはここに持ってくる仕事じゃないんだ。でも俺、こんな話出来るの・・・」
「いいから」
「・・・うちに、早野っているの知ってるか」
「ああ」
「悪い奴じゃないんだが、少し前にちょっとしたことから借金背負い込んだらしくて、」
「誰から?」
「俺は詳しくは知らない。簡単に返せない額に膨れ上がってる。それで、・・・返せないならって、ある契約を押し付けられた」
「契約・・・?」
「内臓」
「・・・そうか」
「でも実質命だ。全部使えるのを持っていかれる」
「・・・・」
「・・・その前に、別のことがあって、」
「SM?」
「・・・最近、会員制で変なDVDが回ってるの知ってるか」
「少しなら。割と最近出来たSMクラブ。会場に客を入れて、目の前で人体切断」
「う・・・」
「その録画のDVDだろ、会員にしか売られない。コピーしようにも制限がかかってるから」
「・・・俺は、詳しいことは知らないんだ。それは酷いのか?」
「三上が2倍速で見て、夜うなされた」
「・・・そんなに・・・」
「その納得の仕方はどーなんだよ!」

帰ってきた三上が丁度聞いていたのだろう、乱暴に入ってきて真っ直ぐカウンターへ向かう。

「あるぞ、辰巳も見れば?これ」
「遠慮する」
「えー、何々俺見たい。何巻目?」
「3」
「あーそれ見た見た。耳とー、腕とー、足の指の奴ー。俺のお勧めは5巻」

ドアを押し開けて店内に入ってきた中西が尾形を見つけて手を振った。カウンターに近寄ったのを、三上があっち、と辰巳の方を指差す。テーブルの側で真っ直ぐ立って、中西は辰巳を見下ろした。

「はいご質問は?高いよ〜辰巳さんv」
「あ、俺が」
「俺に質問があるのは辰巳、尾形は関係なし。ハイそれで?俺今長い時間一ヶ所にいるのやばいんだ」
「そのDVDの出先はわかるな」
「ハイハイ。坊ちゃまが拾ったSMオタクに金渡してそれを元手にでかくしたSMクラブ。叩きたいならそこのオーナーじゃなくて金が出るところ、ヤクザの坊ちゃん。まだ若いよ」
「そこに借金あるやつが連れて行かれるんだな?」
「やだな、あそこは無理強いはしないよ?ただ断れなくするだけ、イエスを言わせるのがうまい」
「そこに就職したらどうだ」
「アラ素敵。……ん?待って、そこ狙い?」
「早野が」
「あらあら」

にやりと笑い、中西が無理矢理辰巳の隣に腰掛ける。尾形を見て、彼の顎に指を添えて真正面から見据えた。

「もし俺が手伝ったら貸しになるかなァ?」
「何だって」
「ヨシ、じゃあ辰巳じゃなくて尾形を手伝ってあげる。お前のとこにコネ作るとでかい」

中西が辰巳の腿をぴしゃりとはたき、辰巳が一瞬歯をかみ締める。隣を睨んだのも一瞬で、すぐに仕事の顔になって尾形を見た。

「早野はいつ?」
「あ、そうだ…さっきの電話が、その店からみたいだった。3日後に、その…ショー?だったみたいだけど、……逃げ出したみたいだ」
「…そうか」
「それってもうお金は貰ってんの?」
「多分、借金取りみたいなのもうろつかなくなったし」
「自殺してたりはしない?」
「!」
「中西」
「だって無駄に斬られて内臓売っぱらわれるぐらいなら俺は死ぬね」
「お前はな。早野は探させる、お前は普通に店にいろ。中西は俺と、」
「SMクラブへって?へたくそなデートの誘い」
「辰巳…」
「尾形は店にいてくれ、お前が数時間いなくなっただけできっと店はパニック起こしてるぞ」
「……頼んだ」
「あぁ」

尾形を帰らせて、入れ替わりに笠井が降りてきた。事情の説明は時間短縮でせずに、辰巳は探し人だけ告げる。

「見つけたら俺の部屋に」
「大人しく返した方がいいんじゃない?どうせ逃げられないんだよ」

中西が辰巳の隣で笑う。笠井は状況は分からないものの、彼は辰巳に従うだけだ。

「笠井、黒川組に気をつけな。そこに気付かれたら、危ないのは誰だろうね」
「…行ってきます!」

笠井が敵意たっぷりに中西を睨み、辰巳と目を合わせて出て行った。辰巳がノートパソコンを閉じて立ち上がり、カウンターで伸びをする三上に目をやる。

「三上」
「あのさァ辰巳、ついでに仕事しねェ?」
「…何を」
「黒川組、うっさいんだよね」
「あ、三上も思う?初めの内はガキが騒いでて可愛いなーぐらいだったんだけど、でかい顔して歩かれるの嫌なんだよね」
「潰せって?」
「頼むぜ社長、……近々軍と手を組むって噂聞いてるだろ?」
「……気が向いたらな」
「行こうか辰巳」

ピクニックへ行くように足取り軽く、中西は辰巳と店を出た。

 

 

 

「おやおや、あの辰巳氏わざわざご足労いただくとは光栄です」
「話はすぐに済まそう。うちの連れがどうもややこしいようでね」

広い机に皮張りの椅子、いわゆる社長のスペースにその男は座っていた。貫禄は十分だが年はずっと下ではなかっただろうか。薦められたソファに腰を降ろした辰巳は慎重に様子をうかがう。
――――黒川組を仕切るこの男、実際組長は彼の父親であるがほとんど引退状態だ。まだ若いからという理由で肩書きだけ残しているに過ぎない。黒川組は元は都市で動いていたはずだったが、何年か前、実質の権力者がこの息子へ移ってから拠点を変えている。目的は分からないが、無秩序に見えても一定の均衡を保っていたこの辺りを乱し始めている。
その表情からは何も読み取れない。相手を見下ろした笑みを浮かべ、じっと辰巳と中西を見比べた。

「ではご用件を」

彼の両脇にはボディーガードさながら護衛がついている。無表情で構える二人は双子のようによく似ていた。兄弟であるという情報は得ているが、その力の方は分からない。

「何、金が入用でね」
「へぇ、儲けてるんじゃないのか?情報屋は」
「情報屋にだって情報屋はいる」
「なるほど…そっちの、中西さんは?」
「俺?面白そうだから付き添いvなかなかイー顔してる坊ちゃんじゃないの?黒川組のボスは」
「それはどうも、一応自前ですから誉められれば嬉しい」
「あらごめんなさいね俺は作りもんだけどあてつけかしら?」
「まさかそんなつもりじゃ」
「中西。――――用件をいいかな?」
「どうぞ」
「金は要るが出来れば借金はしたくない」
「つまり金を貰いたい、」
「そうだ」
「体を売りにこっちへ?」
「そういう事だな」
「ふん、それは少し面白くないな。――――こっちではなくあっちの方に行ってほしかった。一応店に任せてるもんでね」
「それは失礼」
「まぁ、丁度いい。こっちももうすぐショーだというのに一人キャストに逃げられてね」

やや俯いた黒川の目の奥が光る。辰巳は表情を変えないが、中西は若干にやりと笑った。どうせこっちの動向はつかんでいるのだろうから、隠す理由は何もない。

「いいでしょう、あとでこちらから店へ連絡します」
「そうですか」
「逃げたキャストはどーするの?」
「逃げたものは追いますよ。中西さん情報があればお願いします」
「遠慮するわ、俺今謹慎中だからv」

黒川はクックッと喉の奥で笑い、側近の一人に手を振る。彼は黙って部屋を出て行き、しばらく後にスーツケースを持ってきた。それを黙って辰巳に差し出す。

「さてどこがいいでしょうね」
「出来ればあまり仕事にししょうがない所がいいね」
「そうですね、仕事の大変さなら俺もわかります。――――いっそ、笠井君の方がお客には受けると思うんですが?」
「あぁ、なるほど。・・・でもあいつには話してない仕事でのことだから」
「それは残念だ、では次の機会に。・・・辰巳さんはパソコンをお使いか、じゃあ予定の肩じゃまずいな」
「それは困るな。・・・小指ぐらいで勘弁してもらえないか」
「小指・・・ねぇ」

じっと黒川の視線は手に落ちた。しばらく表情と見比べる。

「・・・まぁ、店の者にまた聞いてみましょう。ショーの日付はご存知ですね?それまで尾行をうつけさせてもらいます。その金を持っていくらでも好きに生活をどうぞ」
「どうも。中西、帰るぞ」
「はぁい。――――あ、黒川君」
「何か?」
「あんまりち調子こいてると潰すよ」
「――――出来るならどうぞ?」
「あ、可愛くない」

 

 

 

「・・・・・・」

店へ戻ってくると、三上が部屋でひとり笑っていた。いや、厳密には功刀がいるのだがカウンターに突っ伏して眠っている。
自前のノートパソコンをばしばし叩きながら笑いつづける三上に、辰巳はどうしようか迷った挙げ句スーツケースを頭にぶつけた。

「あ、よぉ、お帰り・・・」
「・・・どうしたんだ」
「いやー金かかったぜぇ、黒川の情報」
「金なら丁度あるぞ」
「あとで貰う。聞くか?」
「あぁ」

スーツケースを三上に渡し、彼はその場で開けて勘定を始める。三上のパソコンを引っ張って、辰巳は仕事を始めた。

「黒川おもしれーやつかもしんねぇ」
「は?」
「こっちの方に来たの、好きなやつを追ってきたらしいぜ?熱烈〜」
「・・・」
「相手まではわかんねーが、時期から逆算したらそこそこ絞れるんじゃねぇ?情報屋」
「はぁ・・・」
「お、なかなか太っ腹じゃねぇの。何処切ってもらうんだ?」
「小指」
「・・・相手了解したわけ、」
「今のところはな」
「詐欺〜〜」
「ん、」

功刀が不意に頭を起こした。寝るのも瞬間的だが起きるのも瞬間的だ。少し位三上に分けてほしい。

「金の匂いがする」
「お前起き方がやらしいな・・・」
「おっ大金、何の金だ?」
「辰巳が小指売るんだと、お前もあのDVD見たろ?」
「・・・あれか?また厄介なのに関わったな」
「功刀も見たのか」
「あの気色悪いやつやろ。流石にあの夜は寝れんかったっちゃ」
「嘘吐け」

ガンガンッと階段を駆け上がる足音がする。辰巳が先に立ってドアを開けると、笠井が転がり込んできた。

「辰巳さんッ、早野医者に連れて行きました!とりあえず人についてもらってるんですがッ」
「何処だ」
「あの、不破さん」
「分かった。状態は?」
「大分危ないです、エリア外で倒れてました。見つけたのは真田です、そこから誠二に連絡があって」
「ふん・・・」
「話は?」
「意識はありました」
「・・・三上、尾形に連絡」
「今呼んでる」
「それ終わったら渋沢につなげてくれるか」

俺がやろう、と功刀が別の回線で渋沢へかけた。カウンターに回って辰巳は笠井に水を差し出す。全力疾走してきた笠井は一気にそれを飲みほした。

「・・・功刀起きてるんだ」
「珍しそうに」
「珍しいじゃん。あー疲れた・・・途中で変なのに追いかけられて必死で巻いてきたので、あ、すいませんやばいかも、巻いたつもりですけど」
「わかった」

功刀が辰巳に電話を差し出し、辰巳がそれを受け取る。笠井は次に備えて解けかけた靴紐を直した。

「――――渋沢?一件回していいか、黒川組だ。そう、SMクラブの。サクラ呼んでくれ」
「おいおいサクラに任せちまうのかよ」

三上が残念そうに呟く。功刀がサクラの名に顔をしかめた。サクラというのは警察を指す。このジャンク街においては一番大きな情報屋の渋沢ぐらいしか警察から信用されていない。
辰巳は手早く用件だけ伝えてしまい、さっさと電話を切る。

「面倒だ」
「・・・辰巳らしい」
「あいつは苦手だ。あんまり関わると笠井が切られる」
「はい?」

辰巳が三上を目で制した。呆れる三上に構わず、笠井に何でもないと告げる。何でもないはずがないが、笠井は不満ながら口を閉じた。

「・・・次はどうしたらいいですか」
「・・・早野のところは不味い」
「・・・・」
「でも辰巳が代わりに行ったんだろ?相手だってほっときはしねぇが急がないだろ」
「そうだな・・・早野も条件に入れればよかったか。どうせばれてるだろうし」
「何の話ですか?」
「辰巳がSMショーに出るって話」
「はぁッ!?」
「三上ッ!!」

あ、ごめんと三上はわざとらしく謝った。三上がこんな面白そうなネタで遊ばないわけがなかったのだ、辰巳は溜息を吐き、そっと笠井の方を見てみる。――――怒っている。

「辰巳さん、何の話ですか?」
「・・・説明すると長い」
「じゃあ詳しい説明は要らないのであなたに関することだけ」
「・・・仕事の関係でSMクラブに潜入、そこのスーツケース貰って後日のショーに出演、予定では小指切断」
「ッ・・・!」

笠井の怒りが眼に見える。だから言いたくなかったのだ、辰巳は次の句を予想して。

「そんなの俺が代わりに行きます!」
「ほら・・・」
「辰巳さんはパソコンの前で構えてればいいんです!俺があなたの足になりますから!」
「足じゃなくて手だけどな」
「足だろうが手だろうがッ、あなたのためなら首だって切らせます!」
「笠井」
「・・・・・・」
「俺が嫌なんだから、分かってくれ」
「・・・わかりたく、ないです・・・」
「・・・・」

ぐっと拳をかためて、笠井は真っ直ぐ辰巳を見る。

「・・・笠井、欲求不満なら俺が」
「店長は黙ってて下さい」
「はい」
「何のために俺がここにいるんですか・・・」
「・・・・」

辰巳が深く息を吸って溜息を吐いた。ノートパソコンを抱えて立ち上がり、携帯は三上に投げる。
そのまま笠井の腕を捕まえた。引っ張って店を出て行くのに笠井が慌ててついていく。

「おーい、早野は?」
「任せた」
「マジかよ」
「20分で戻る!」
「はいはい・・・20分で終わればな」

 

 

2 >>


無駄に長いよ。

 

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