p E a C e   k e e p i n G






「鳴海の武器は何だった?」
「・・・俺のか?俺のは・・・」

鳴海はリュックを開けてそれを出そうとする。

「俺のはね、」

設楽が手に力を入れた。


「コレ」


「っ!」

冷たい金属が、鳴海の肩に振り下ろされる。
刺さっていく感触に、設楽が眉をひそめた。不快、と言いたげだ。

「こんなモンでどうやって人殺せって言うの?」
「お前・・・」

肩に深々と刺さったそれを抜こうとせず、設楽は手を離して微笑を浮かべる。
鳴海の肩から、アイスピックの柄だけが生えていた。

「肩に刺したぐらいじゃ絶対死なない。腹に突っ込んで肺にでも穴空けなきゃ」
「・・・・・・俺の武器はなぁ」

痛みを堪えて、鳴海は柄を握りしめた。

「コレだっ」

「いっ・・・」

鳴海の手から、鎌が振り下ろされた。その刃はしっかりと設楽の腕に食い込む。
設楽が自分の手で鎌を抜くと、血が絶えることなく腕を伝った。

「・・・は、カッコ悪ィ。鳴海らしいじゃん」
「そんなモンでやられてるお前も相当格好悪いがな」

自分の手では引きにくい所にあったにもかかわらず、鳴海はアイスピックを引き抜く。
一瞬顔をゆがめたが、設楽の手前直ぐに相手を睨みつけた。
お返しだと言わんばかりに、鎌を握りしめた鳴海の腕が振り下ろされて、今度は設楽の肩に食らいつく。


「っつぅ・・・痛いってこれ、マジで死ぬ」
「つか殺すし」
「ふーん・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・俺ねぇ、マゾかもしんなかったんだ」

「は?」

「・・・アンタの怒ったカオ好きだよ」

設楽が鳴海の胸元を掴んで引き寄せた。
警戒した鳴海は、肩に刺さったままの鎌に更に力を込める。
設楽が顔をゆがめて、しかし笑った。



「アンタに殺されるなら本望」



「ホントは腹上死希望だったんだけどね?」

動く方の手で鳴海の首に腕を回し、ぶつかるように唇を重ねた。

設楽の肩から鎌が抜かれ、今度は腕を回され首に食い込む。
力一杯、鳴海はそれを引いた。

・・・・・・設楽が音を立てて崩れ落ちるのを、鳴海は何処か客観的に見ていた。


「・・・お前、嘘上手いもんな」


コレで邪魔者は居なくなった、
鳴海は闇の中で笑った。


泣いてることなんて誰も知らない。







「!?」

微かな気配だったが、若菜は気付いて支給武器のそれを握り直した。

「結人」
「・・・一馬?」

ほんの、校門を出たばかりの位置。 真田の出席番号は8番、若菜は20番。

「・・・一馬、お前」
「待ってた」

人がやっと一人隠れるぐらいの茂みで、暗くなっているのが幸いとして見付かりにくい。
但し、それは「見付かりにくい」だけであって、もし誰かがそこで待ち伏せをしようと考えていたら先客だった真田は殺されていただろう。

「お前・・・バカだろ・・・」
「な、何でだよ!」
「ハハ、ぜってー逃げてるって思った。ひたすら走ってンじゃねーかなって。どうやって探そうかって考えてたのに」
「・・・ホントは、初めは逃げてた。だけど、」


英士だったら待ってるじゃん


「・・・・・・・・・・・・」

若菜は無理矢理笑顔を作った。
暗い中では近くの真田にだって見えないけど、笑わなければ泣いてしまいそうだった。

「・・・結人、俺、」

真田が何か切り出そうとしたとき、少し先を行ったところの暗い森の方で叫び声が聞こえた。
これは、このグループでは唯一の、女の悲鳴。

「っ・・・行こうっ!」
「一馬!?やばいって!」

次に聞こえた銃声に、走り出した真田の足が止まる。
郭の最後に聞こえたのとよく似た。
・・・否、それは同じ音だったのだがふたりには判りもしない。

吐き気がする。

「・・・行こう」
「一馬!やばいって、銃声って事は乗ってる奴が居るって事だろ!?何でわざわざそんなトコ行くんだよ!」
「乗ってない奴が居るかもしれないだろ!」
「一馬!落ち着けよ!乗ってない奴が居たからってどうなんだ!?」
「・・・それは、」
「俺等が行ったって、・・・最悪、死ぬだけだぞ?」
「・・・・・・でも、俺は行く」
「一馬」
「・・・未だお礼言ってないんだ」







間宮は俺よりも随分後ろの方だった。

笠井は走りながら、やっぱり待ってようか何てもたもたしていた自分を恨む。

「タクっ大丈夫!?」
「大丈夫!誠二も足下気を付けて!」

相手が悪かった。
同じチームでやっていたふたりにはそれがよく判った。

只でさえ足場の悪い山道を、命を懸けて駆け上がる。
大型のナイフをしっかりと握りしめて、間宮茂(17番)が後ろを追いかけてきていた。
距離は縮んでない自信はある、だけどそれもいつまで保つか。

走るのに邪魔になるリュックを、だけど必死でそれを落とすまいと掴んで藤代は前を睨んで走る。
俺がタクなんか見付けたからいけなかったんだ、間宮は多分俺の後を尾けていたから。
俺が。

丁度前が左右に分かれた。
何年も何十年も、人や獣が通って自然に二手に分かれたような感じだった。

「・・・・・・タクッ・・・」
「何っ?」
「タクはそのまま左、俺は右。間宮がどっちに行っても恨みっこナシ。
 このままじゃふたりとも死ぬ」
「っ・・・わかった」

藤代の頭は至ってクリアだった。
まだ、信じ切れてなかったのかもしれない。

間宮が追うのは絶対にタク。
追いつけるのはタクの方。

笠井の方はそんなことを考える余裕はないらしい。
・・・三上先輩でいっぱいかな。ゴメン、タク・・・・・・

グッとふたりの足に力が入って、一斉に二手に分かれた。
間宮は一瞬戸惑うが、藤代の読み道理に迷わず笠井の方を追う。
藤代が、その場にリュックを投げ捨てて間宮に向かって走った。 横殴りに体当たりをして、間宮と一緒にその場に崩れ込む。

「誠二っ!?」
「走れバカっ!! っう!」

体勢を持ち直した間宮の手中のナイフが藤代の腕をかすめる。

「誠二っ!」
「走れってば!!」

足を止めて戻ってこようとする笠井に怒鳴るように言う。
笠井はそのまま足を止め、アリガトウもゴメンも言わずに走り出した。

だって、ちゃんと言うんだ。
ちゃんと、言えるよな?アリガトウって。


笠井が走っていったのを横目で確認する。
再びナイフを閃かせる間宮から素早く逃げて頭部に自慢の脚力をお見舞いした。
間宮が勢いで崩れ落ち、もう一発腹部に食らわせる。

「オマエッ・・・嫌いだったけど!」

痛みを無理矢理堪えて間宮が立ち上がる。真っ直ぐに藤代を睨み、ナイフを握り直して突っ込んできた。
不意を付かれての攻撃に、藤代に又傷が増えた。
今度は深く、大腿部がえぐられる。 もはや気力で間宮を振り払った。

「っぅ・・・・・・お前嫌いだけど!
 ─────チームメイトだったんだよ!」

間宮が再び立ち上がる。藤代にはもう、力が残っていなかった。
流石マムシ、
この後に及んでも藤代は自分のペースを保つ。

・・・一生、ドラマの中でしか聞くことがないだろうと思っていた音が藤代に耳に届いた。
その音は痛みも伴っていた。
がくんと力が抜け、藤代の体がその場に崩れ落ちる。

「きゃっ・・・」

怯えた声に間宮が振り返った。
深い森の中にわずかにそそぐ月明かりで、その人の表情は読みとれた。
見ていた。

「・・・こ・・・・・・・・・こじまさ、」

間宮が標的を変えた。
藤代はほうっておいても死ぬだろうと判断したらしい。

「いっ・・・イヤッ!」

未だ藤代の血がべったりと付いたナイフを振りかざし、間宮が小島に向かって走った。
生まれついた反射神経で、小島は後ろを気にしつつも走り出した。
元来た方へ、笠井の進行方向とは逆。

ガウンッ

音に驚いて藤代は咄嗟に目を瞑る。
何かが倒れた思い音がして目を開けると、間宮がそこに倒れていた。
確かめずとも判る。
既に事切れていた。

「小島!」

三上の後から走ってきた水野が、事態を知らずに下の方へ駆けていく小島の影を追う。

「藤代!?」
「・・・三上先輩?」

あー、何でこの人かな、と藤代は笑顔を作って後ろに倒れる。
三上が慌てて駆け寄った。

「イター、ちょっと、痛いッス・・・」
「たりめーだ。・・・オイ、藤代?」

起こそうとする三上の襟首を掴んで、藤代は顔を上げる。



「タクに渡しといて」



一瞬。

一瞬だけ、藤代が上体を起こして三上にキスをした。
それは本当に微かで、触れているのかどうかさえも危うかった。
直ぐに藤代の指から力が抜けて、後は引力に従って体は地面に落ちる。

「・・・・・・バカだろお前」
「バカで良いッスよ、もう」
「バカだ・・・・・・」

「また・・・サッカーやろう」






「小島!大丈夫か小島!」
「えっ・・・水野!?」

追いかけてきた声に小島は足を止めて振り返る。
こっちに走ってくるのは紛れもなく、水野だった。

「怪我ないか?」
「うん・・・。・・・・・・ねぇ水野、・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

「水野、捕まえたか」
「三上」

後を追ってきた三上がふたりに追いついた。
制服の袖口が血で汚れている。藤代を起こしたときに付いたものだろう。

「水野・・・」
「あぁ、大丈夫だ小島。一緒に来てたんだ」
「・・・ふぅん、そっちが水野のオヒメサマって訳か。
 ────とりあえず何処か隠れられるところに行こう。誰か来るかもしれねぇ」
「え?」

「少なくとも鳴海は確実に、このクソゲーに乗ってる」

三上の言葉に小島は軽く目を伏せた。

「・・・隠れるなら、もうちょっと行ったところの海沿いに洞窟みたいなものがあったわ」
「よし、そこ行くぞ」

さっきまで自分はそこにいたと小島は説明する。
小島の案内で3人がそこに行くと、確かに砂浜にぽっかりと、獲物が来るのを待っているかのように壁面に大きな深い穴が開いていた。

「うわー、お前こんなトコに一人で居たわけ?水野、お前のヒメさんすげぇな」

水野が鞄を探ってペンライトを取り出した。どうやらそれは全員に入っているようで、小島もポケットから同じデザインのそれを取り出して洞窟内を照らす。
奥の方には光を吸い込まれてしまい、細い光は足下を確かめるのにしか役に立たなかった。

奥に誰が居るか判らない。
誰もいないのを祈りながら、3人はその中に入った。

「三上、・・・・・・・・・藤代は・・・」
「・・・・・・バカだろあいつ」
「・・・藤代君・・・」

上水にも遊びに来たことがあったので小島も藤代を知っていた。

「・・・バカだ」

三上の一言が妙に重く響いた。

「・・・そういやさ、俺も水野も未だ自分の武器確認してねぇんだよ。 小島?だっけか?ちょっとペンライトで照らしててくれ」
「え?だってアナタそれは・・・」

小島が指した自分の手にある銃を見て、三上は口端を上げる。

「郭の」

「!! ・・・何で・・・」
「・・・俺は・・・あいつに会うまでは死なねぇ」

銃でよかったと思った。
ナイフよりか、現実感がなくて良い。

「・・・・・・あいつには、人殺させたくねぇんだよ」
「三上・・・」
「だから、一人でも減らす」

三上の言葉に小島が水野を見る。
本当に信用して良いのか、そんな視線だ。

「・・・安心しろ。お前等は殺さねぇし、ついでに言えば俺はこれから一人で行く」
「三上!?」
「どっちかの探してる奴が見付かるまでって言っただろ!大体お前等みたいなんふたり連れてても足手まといだっての!
 お前等の所為で俺に死なれたくないだろ?」
「三上」
「だってお前に人が殺せるか?」
「・・・・・・・・・」

水野が黙り込む。
小島が批判するように三上を見たが、その視線には心配も含まれていたようだった。

「・・・悪ィ・・・。
 ─────・・・いいんだよ、人なんか殺せなくても」

「・・・さぁ、武器確認しときましょう。
 因みにあたしのは全く使い物にならないわ。外れって奴ね」
「何?」
「ソーイングセット。しかも出掛けるときに持っていけるようなコンパクトな奴」
「・・・そりゃまた、ピッタリだな」
「ちょっと水野!」
「イヤ?おれはそれは渋沢に当たるべきだったと思うぜ?」
「・・・・・・あはは!」

渋沢が裁縫をしているところでも想像したんだろう。小島が初めて三上に笑顔を見せた。

「水野は?」
「俺は・・・何だコレ?」

それはゲーム機のようにも見えた。
一見液晶テレビのような外見をしていて、水野が何気なくスイッチらしきモノを押すと画面がパッと現れる。
海、らしき青い部分の近くの陸地に、黄色い丸が3つ点灯していた。

「・・・これって・・・俺等、だよな?」

同意を求めるように水野が小島を見た。
小島は只肩をすくめる。

「・・・ちょっと俺が歩いてみるから、お前ちょっと見てろ」
「え?三上?」
「大丈夫だ」

ベルトに挟んだエモノを叩いて、三上が洞窟を出ていく。
小島が画面を覗き込むと、確かに点が一つ、外に移動した。

「・・・探知機・・・とか、そんな感じかな?正しい呼び方は判らないけど」
「多分・・・首輪かしら」

小島に言われて、水野は首輪の存在を再確認する。

「・・・ちょっと、彼何処まで行ってるわけ?」
「あ、ホントだ」
「あたし呼んでくる」
「ちょっ、小島うろついたらあぶな・・・」

水野が言い終わらないうちに小島は出口の方へと歩いていく。
溜息をついて水野が薄暗く光る画面に視線を移した。
・・・自分達が来た方だと思われる方向から、二つの光が近付いてきた。

「!!」

武器も何もなかった。
だけど水野は小島を止めに走った。

「小島!」

「何?水野も来たの?」
「じゃない、誰かがこっちに・・・・・・」

視界の端っこに影が引っかかり、水野は無意識に小島を背にして立つ。

「・・・誰だ?」

二つの影が動揺したように動いた。

「・・・・・・水野か?」
「・・・真田?」

お互い、自然と緊張が解けていく。

「おい、・・・、さっき銃声が聞こえたけど・・・・・・間宮?」
「若菜も一緒か。・・・見付けたのか?」
「・・・藤代が、」
「・・・・・・・・・・・・」

「・・・お前等はこのプログラムに乗るのか?」
「まさか。俺も結人も人殺しなんかしない」

「・・・だから一馬は甘いんだ。判ってんの?英士は死んだんぞ?」

「だからって、・・・俺はヒトは殺さない」
「・・・・・・・・・」
「おい、誰だ」

いきなり聞こえた第三者の声に、若菜が武器を握り直した。
暗い闇の中で微かに火花が散る。
・・・スタンガン。
それが若菜の支給武器だった。

「三上か。大丈夫だ」

水野の声に真田が若菜を目で制する。
すっと細くペンライトがついて、三上が歩いてくる。ペンライトを持っていない方の手にはしっかりと銃を構えていた。

「・・・英士のだ」
「・・・ふぅん、よく見てたじゃん」
「何でお前が持ってるんだよ」

真田が三上を睨みつける。

「・・・『先生』がイイって言ったんだよ」
「結人・・・」
「あぁ、俺より後か。・・・何だ、イヤなら止めりゃよかったじゃねーか」

三上は冷たく鼻で笑う。
その場はシンと静まり、音と言えば微かに寄せる波の音ぐらいのものだった。

月から何かこぼれてきそうな程、綺麗な夜だった、
事態も忘れ、小島はしばらく空を見上げていた。現実逃避の意味もあったのかもしれない。
ふと横を見ると、真田も空を見上げている。
小島の視線に気付いて真田が小島を見た。

「・・・あ、」

見たことある。
小島は記憶をたぐった。

「・・・一馬!行こう。俺こいつ嫌いだ」
「別にお前に好かれようとは思わねぇよ」

若菜が真田の手を引いて歩き出す。

「あっ・・・ちょっと待って!」

真田は若菜の手を振り払って戻った。小島の前で、軽く深呼吸する。

「・・・小島さん、だよね、」
「うん・・・」
「道教えてくれて有り難う」

あ、あの時の彼だ。
急に思い出した過去に、今の状況が逆にリアルに感じられて哀しくなった。

「一馬!」
「判った!」
「あっ名前は?」

駆けだした真田を小島は慌てて引き留める。

「真田一馬!」

多分、名前を呼んで貰えることはないけど。

「っ・・・・・・もう迷わないでね!」

遠くなる後ろ姿に小島は叫んだ。
後ろ姿の真田は力強く拳を振り上げる。

真田の中ではある決意が固まっていた。





  p E a C e   k e e p i n G






 10番設楽兵助 15番藤代誠二 17番間宮茂 死亡 【残り14名】







w i L l Y o u h e l P m e ? > > > 





BACK
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送