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「・・・今の・・・三上先輩・・・?」
「お前も居たのか・・・?」

全く気配を感じなかった。
風祭が隠れるのが上手い、とか気配を消せる、とか言うことはまずないだろう。
青い顔をした風祭を見て黒川は確信した。
しかしそれでも気付かなかった自分に気付き愕然とする。
風祭だったから良かったモノの、三上が言ったように鳴海か、誰かこのゲームに乗った奴だったら黒川は既に死んでいた。

「何で、・・・こんな事」
「・・・バカかお前・・・まさか未だどうにかなるとか考えてんじゃねーよな・・・」
「だって!可笑しいよこんな事!」
「俺だって信じたくねぇよこんなこと!でも実際に、死んでんだよヒトが!
 ───あぁ・・・そうか、お前ンとこ未だ生きてるもんな」
「え・・・?」
「上水」
「!」

放送を聞いて、チェックをつけた。
朝六時にあった放送に、桜上水のメンバーの名前はなかった。

「だからそんな余裕?
 だよな、サッカーはチームワークのスポーツだもんな、・・・だから、みんなでやれば脱出できるんじゃないかとか考えてんだよな」
「ち、違・・・」
「だよなぁ?不破がいれば百人力だよな」
「違う!僕はそう言う意味で言ったんじゃ・・・」
「俺は」

椎名の気持ちが一瞬分かる。
やっぱり、翼は乗ってないかもしれない。
そんなことをぼんやりと考えた。

考えながら、ボーガンを風祭に突きつけた。

「黒川君・・・?」
「・・・俺だって、判んねぇんだよ」

何がしたいのか。
何をすればいいのか。
どうしたいのか。

何が判らないのかも判らない。

「黒川君!絶対何とかなるって!
 絶対大丈夫だよ!みんな信頼できる人ばっかりじゃないか!」
「・・・救いようもないバカだな。
 何でそう言い切れる?もう・・・死んだけど、郭とか、ユースの奴等は俺は話したことねぇ。設楽は?設楽はお前のこと知らないままだっただろうな。佐藤だって怪しい」
「黒川君!」
「っ・・・お前もう喋るな!頼むから!」

手に力がこもって先端がぶれた。
握力検査でもしているかのように、黒川はぐっとボーガンを握りしめる。

「黒川君!何とかなるって、大丈夫だよ!」


甘い甘い


無意識の蜜。


タチの悪い病気みたいに、風祭の言葉が黒川の脳裏に響く。
現実的に考えて、そんなこと無理だと確信している。
だけどどうしようもなく甘い。
何とか、
・・・してきたんだよな、お前は。
甘い

ふっと薄く、黒川は微笑んだ。

「お前頼むから・・・もう喋んなよ・・・」

何とかなる気がするだろ


ボーガンの音は響かない。





「・・・マサキ」
「っ!?」

黒川が振り返る間もなく足音は走り出した。
見間違えるはずがない、小さいのに頼れる背中が頼りなく駆けていく。

「翼!」

追いかけようとして数歩大股で進み、黒川はそこで足を止める。

追いかけて、どうする?
言い訳を?

「・・・ボーガンか」
「!!」

またかと言いたくなるほど新しい顔と出会い、黒川の神経もいい加減すり減っている。
振り向いた先には、胸から矢を生やした風祭に両手を合わせている不破の姿があった。

「・・・俺の武器は、コレ」
「っ」

ズボンのベルトからそれを引き抜いて、不破は手のひらの上にそれを置いた状態で固定する。グリップは握っていない。
しかし黒川はしっかりとボーガンを構えた。



色んな事が次々と起こりすぎて
素直にショックを受けてる暇もない









逢いたいだけ

小さな茂みの中に翼はうずくまっていた。
膝を抱えて、目を膝に押しつける。

本当にその行為を目撃した訳じゃない。
だけど見たのは、その手を下ろした。

さっきまで構えていたその手を下ろしたとき。

言い訳はさせない。
倒れたのは誰かまでは判らなかった。只、それの倒れるリアルな音は聞いたけど。
だけどとりあえずそれはヒトだった。


・・・逢いたいだけ。


微かな話し声を敏感に聞き取り翼は顔を上げる。
繁った葉の隙間から向こう側にじっと目を凝らす。二つの人影が見えた。

真田と若菜。
若菜の「わ」、出席番号と称された番号は50音順だったため、若菜は一番最後の筈だ。
そして真田は、自分の前。

真田が居なきゃ直ぐ後に出れたのにさ、と勝手に心の中で毒突く。
それはいいとして、それだけ離れた2人が出会えている。
自分が9番目だったから真田は8番、若菜が出るまでに9人もある。×2で18分。
どうして差が4分だった僕等は会えないんだよと椎名は宙を睨んだ。

2人の様子をじっと見る。
ぼそぼそと会話をしているが内容までは聞こえない。

・・・どうしよう、信用できるだろうか。
ちょっと、聞きたいだけ。






「・・・よし、ココは禁止エリアじゃない」
「そっか」

見晴らしのよい緩い崖に2人は立っていた。
若菜が青々と繁った草の上に腰を下ろし、そうかと思えばごろんと横になる。
真田もコンパスをしまって若菜の横に座った。

悔しいぐらいに晴れていた。

「・・・あー・・・・・・サッカー日和」

ぽっかりと浮かんで自分達を見下ろしている雲を見ながら若菜がぽつりと呟いた。

「あ、今日練習試合だ」
「ふーん、一馬が居なかったらまず負けるだろ」
「てゆーか俺居ても負けるんじゃねー?」
「一馬協調性ないもんなぁー」
「うっせーな。パスもマトモにこねーのにやってられっか」
「ほんっとお前俺等居ねーとダメダメだな」
「余計なお世話だ。英士と良いお前と良い、ヒトを何だと思ってんだよ」

郭の名前が出て若菜の言葉がのどでつかえた。

「一人じゃ何も出来ないヘタレなかじゅま君」
「うわっ酷・・・」

下から吹き上げるように風が吹いて草が一斉に大合唱を始めた。
それがおさまった頃、真田がゆっくり口を開く。

「・・・昨日何してたっけ」
「えー?」
「俺・・・結人と電話してたよなぁ」
「あー・・・してたね」
「・・・ンで・・・起きたらあそこ居たんだよな・・・」
「居たな・・・」

教室
自分のクラスのそれとは違い、だけどよく似た。

自分が見慣れているのは40個も机がぶち込まれた窮屈な空間だった。
だけどあそこにあった机は人数分、20個。
但しその机は勉強をするためのモノじゃない。当然置勉何てモノは引き出しに入ってなくて。

そこで

親友が。


「・・・ゴメン結人」
「え?」
「俺」

顔は見えなかった。
泣いてても可笑しくない声だったけど、その声は泣いては居なかった。

「小島さんけっこー好きだったかも」
「ふーん・・・・・・何で俺にあやまんの?」
「・・・結人好きになってたら良かったかなって」
「!?」
「あのね、お前等いつまでも俺を甘く見てんなよ。
 ・・・俺だって、一応お前等のことちゃんと判ってるつもりだぜ?」
「ちょ、待って、一馬何言ってんの?」
「英士卑怯だと思わねぇ?」
「・・・・・・・・・・・・卑怯、だな」

ガラス。
マジックミラーのつもりだったのに、ホントは只のガラスだった。

「一馬」
「何?」
「好きだよ」
「うん」
「英士より好き」
「それは分かんないけどな」
「イヤ、絶対俺の方が好きだよ」
「まぁそうしとこう」

空は快晴。
さっきはあったはずの雲がいつの間にか吹き飛んでいる。

サッカー日和だ。
真田が言った。

「・・・結人、俺の支給武器さ」
「あ、そういや聞いてなかった何だった?」
「英士痛かったと思う?」
「───さぁ?弾食らったことないし」
「だよなぁ」

コレ、

真田がポケットから小さな小瓶を出した。
ご丁寧に、ドクロマークの書かれたラベルが貼られている。

「コレ、苦しいと思う?」

「一馬・・・」

若菜が上体を起こす。
それを見計らったかのように真田は体を倒して寝ころんだ。




「・・・・・・・・・半分な」




「え」
「半分っつってんの。・・・って量足りなくてどっちも死ななかったら洒落になんねーけど」
「結人」
「何?俺おいてく気?
 ─────3人でまたサッカーしよう」
「・・・だな」

真田が体を起こす。
2人の目があって、何となく笑い出した。
笑い声が一つ足りないと思いながら笑っていた。

「何か・・・入れ物ないかな。2等分しよーぜ」
「紙の上でもイイんじゃん?地図」
「ココだと風強いな」
「飛んでったら洒落になんねぇ」



その音がふたりに聞こえたのか聞こえてないのか。



茂みの中にいた椎名は咄嗟に目をかたく瞑り、両手で耳を塞いだ。



地を這うような銃声が2人の背中をほぼ同時に襲う。
勢いに任せて体は前につんのめり、顔面をしたたか地面に打ち付けた。
しかしその体は既に痛みを伝えることは出来なくなっていた。
当然、体に食い込んだ鉛玉の感触もするわけがなく。






はぁ、と溜息をついて無意識に銃口を地面に押しつけた。
重々しい武器に体重を掛けて赤くなった2人を見る。
微かに手が痙攣しているように感じた。しばらくその手を見て、それからもはや生命活動の停止した彼等を見た。

「自殺すんのは乗ったも同じやで」

一息ついて、佐藤は銃を肩に担いで近付いた。
幸いというか何というか、リュックは2人からやや離れたところにあったので血はそんなに飛んでいない。
また溜息をついて、リュックから水とパンを出して自分のリュックに移し替える。
ぐるりと辺りを見回して、若菜のポケットからはみ出ているエモノを見付けて佐藤は何度目とも判らない溜息をついた。
しばらくスタンガンを睨むように見て、諦めたように手を伸ばしてそれを引き抜いた。真田の手元に転がっている小瓶も見付け、ついでにそれも拾う。

「お前」

反射的に佐藤が銃を構えた。反動に一瞬バランスを崩す。

「何してんの?」
「姫さん・・・」


逢いたかった。
だけどこんな時は

どうすればいい?








ずっとそれに近い言葉ばかりが頭の中を占めている。
何か他のことを考えることも許されず、笠井の視線は何処も見ていない。
遠くで聞こえた、島中に響いた銃声も笠井の耳に届きはしたが大して意識することは出来なかった。

朝の放送で聞こえたのは
チームメイトの名
全然知らない奴
それなりに面識のあった奴
最後に想いを伝えて逝った奴
キャプテン

親友

逢いたいヒトの名前がなかった、と言うことにさえも気付かずに只それを。


誠二が死んだ


しばらく走ってクリアになった頭はちゃんと機能していた。
ひょっとしたら自分は壊れてしまうんじゃないだろうかとも考えていたが、それは必要以上に冷静にコタエをはじき出していてくれた。
考えようとしている訳じゃない、寧ろ考えたくない。

冷静に考えれば。

あの時間宮は絶対自分を追っていた。
よく考えれば、藤代は自分が走っていた真後ろにいたじゃないか。
反対方向に行ったはずなのに。
それに

彼ならやっても可笑しくない。
好きな人を守ろうなんて。

気持ちは知ってた。
痛いぐらいに判ってた。

アリガトウって言ってないのに
ゴメンナサイ言わないといけないのに

俺の所為で


・・・・

笠井は初めて支給のリュックに手を伸ばす。
古い床がギシリとなって、思わず外の方に視線を向けた。

マシンガンを構えた金髪に伝えた一言を何故だか思い出していて、笠井が今居るのは神社だった。
幸い周囲に誰もいる気配はなかった。
只、禁止エリアを聞いている余裕が笠井にはなかった。
もしココが、禁止エリアになっていたら?

未だ綺麗な地図を、笠井はじっと見つめる。
いや、
禁止エリアになってもココにいる。

封がしっかりとしまっている水の入ったペットボトルを見付けて、笠井は初めてのどの渇きに気が付いた。
一瞬毒は入ってないんだろうかと考え、コレは人殺しをさせるゲームなんだからそれはないだろうと思いキャップをひねる。
何故だか懐かしいような蓋をねじ切る感触に、視界が水に沈んだ。
こんなにものどは渇いているのに、一体体の何処にそんな余分な水分があるのか。
水も飲めずに笠井は泣いた。

中途半端に開けたままのペットボトル。
急に触るのも嫌になる。
色々と聞こえてきて嫌だった。
ゴミ処理に苦労するほど溢れているペットボトルは、あまりにも生活に馴染みすぎていて。
記憶の中に絶対入っていた。

ふと見付けた新製品とか。
何故だか蓋がかたくて開かなくて、あちこちたらい回しにしたことも。
流石に異性のを一口貰ったりとかはなかったけど。

リュックの中には同じモノがもう1本あった。
笠井はそれを並べて、自分から離れたところに置く。流石に捨てる気にはならなかった。
そしてリュックの中に見付けた、支給武器。

「・・・・・・これってヒト死ねるのかな」

手首に押しつけたペーパーナイフは只冷たかった。









「え?」
「だから、誰か倒れてたの」

何となく声を潜めて言った小島の言葉に、水野は一瞬考え込んだ。言うのを躊躇しただけかもしれない。

「・・・生きてるのか?」
「さぁ。近付いてないもの」
「どんなヤツだ?」
「・・・派手な頭のヤツ。あ、シゲじゃなくてね」
「鳴海か・・・」
「・・・鳴海って、」
「三上が言ってたヤツ。えーっと・・・お前の斜め後ろに座ってた」
「教室の話しないで」
「・・・ごめん」

水野は視線を落として自分の足下を睨んだ。
自分がいつも、通学時に履いている靴だった。
スパイクが良かったなんて何故だか思った。こんな森の中じゃ却ってこっちの方が走りやすいのかもしれないけど。

「・・・水野、」
「・・・何だ?」
「そうしてあたし達ココに居るんだろう」

それはコタエの出ない質問。

「・・・昨日は・・・久しぶりにお兄ちゃんが帰ってきてて・・・」
「・・・・・・」
「一緒に・・・買い物に行ったの。服を買ってきた。前見てたのちょっと安くなってたから。
 ・・・アレ・・・着てないのになぁ」
「・・・そっか。見たかった」
「今度のデートの時に着ようと思ってたんだけどね」
「はは・・・残念でしたってか?」

言ってて虚しくなってくる。
水野はだけど言わずに入られなかった。小島も、ふさわしい言葉じゃないと思いつつも特に何も言わない。

「・・・どうして寝ちゃったんだろう。
 すっごい真剣にドラマ見てたと思ったんだけど、・・・あーっ・・・ラスト気になるなぁー・・・」
「・・・・・・俺は」
「何?」
「・・・俺は、何か可笑しいと思った」

ドキドキしている。
体中が脈打っている。
言葉にしたらそれを認めてしまいそうで。

「・・・離婚してから初めて・・・イヤ・・・初めてじゃなかったのかもしれないけど、俺が知ってる限りでは初めて親父がうちに来た」
「え・・・」
「・・・・・・最後に見てたのは何だろう・・・ホームズが吠えだして、それで・・・」

何か可笑しいと思ったんだ。
親父がうちに来たけど母さんは居なかった。

「水野・・・」



小島は水野のリュックの中に入っているはずのボールを見た。




「・・・サッカーしようか」





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  4番風祭将 8番真田一馬 20番若菜結人 死亡 【残り9名】







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