c r Y f o r t H e m o o N
「ボーガンは扱いにくいだろう」
「・・・・・・」
銃口は一瞬こちらに向いて、落ちた。
黒川は手を下ろさない。
不破が地面に膝をつき、風祭に刺さった矢を抜いた。
それを無造作に黒川の方へ投げ、黒川は数歩後退する。
矢は横向きに投げられたので攻撃する意志はないのだが、本人は自覚してないがそれだけ黒川は怯えていた。
おまけに矢の先は、赤。
不破は続いて風祭のリュックに手を伸ばす。
流石風祭、か、リュックを開けた形跡はなかった。
「・・・果物ナイフ」
リュックの底に眠っていた武器を不破が持ち上げた。
簡単なカバーの付いたそれは、日常生活でも見かける珍しい物じゃない。
不破はそれも矢の辺りに投げる。
「刃物を使うには接近戦は避けられん。かと言って銃やボーガンの類は弾や矢がなくなるというのが難点だ。
まぁ弾は随分多く入ってはいるようだが」
ズボンのベルトに銃を挟んで不破が立ち上がる。
自分と風祭のリュックを一緒に、やはり矢とナイフの傍に置いた。
そして自分は風祭の傍へ戻り、黒川が更に後退したことなど気にも留めない。
思い出したように風祭の手を胸で組ませ、目を閉じた。
「・・・不破・・・?」
「ホントは、何か出来るのかも知れない」
「え?」
「逃げ出す方法というモノが、合ったかも知れない。この世に完璧なモノなど有り得ないから、あるだろう。
しかし俺は渋沢を殺した」
「っ!」
「自分じゃ死ねなかったと言った。
確かに奴の支給武器は日本刀、刃物であり、途中で躊躇えば生き地獄を見るやもしれん。したがって、死ぬも殺すも即死の確率の高い銃器類の法が苦しみは少ない筈だ」
不破は銃をベルトから抜いて構えた。
銃口は、側頭部。
「っ・・・不破!?」
「もう少し早く・・・何か出来たら良かったのだが・・・・・・しかし、どうにも・・・」
「不破・・・やめろ・・・」
「・・・どうにも、これ以上進む気が起きないんだ」
「不破!」
銃声に思わず目を閉じた。
音に反応して顔を上げる。空は皮肉に晴れていた。
「・・・銃声・・・1人死んだか」
あー、でも死んでねぇ可能性もあんのか、等と呟きながら鳴海は少しぺーずを早めた。
「これは姫さん持っとれ」
「・・・でも」
手に押しつけられたスタンガンを握り返せずに椎名が佐藤を見る。
「ええから。それとも何や?フォークで身ィ守るか?」
見せるために出した支給「武器」を持った自分の手を見て、椎名は曖昧に笑ってスタンガンを握る。
佐藤は満足そうに頷いた。
「そうや、もう・・・そんなに生きとるモン、居らんけど」
「・・・まぁ・・・・・・な・・・」
ズンと手に重量を感じる。佐藤がスタンガンを持つ手を離した。
感じる重さに、背筋に寒気が走る。
「でも・・・一応俺が守るつもりやさかい・・・」
「・・・バァカ」
多分そんなに弱くねぇよ。
三上は地図を広げようとして顔をしかめた。四つ折りにしたそれの、半分以上が赤い。
「・・・〜〜〜〜しまった」
そっと広げようと試みるが、たっぷりと血で濡れた地図は音もなく破れた。
「・・・まずったー・・・何やってんだ俺」
さっき銃に弾を込めるのに、何も考えなしに地図を脇へ挟んだ自分を恨む。
肩の血が流れ出していたらしく、それで地図が染まったようだ。
ひとりじゃどうも、止血は難しい。
「ハァ・・・神社何処だっけ・・・」
笠井が聞いたら怒りそうな発言をして、三上は必死で残る記憶をたどってみる。
寺だか神社だかが、2カ所。
さっきは興奮している様子の笠井を落ち着かせるためにあったと口走ったが、自分が見つけたのは寺と神社の地図記号。
どっちが神社?
話してる途中で充電の切れてしまった携帯を見る。
微かに震えた声を思い出して、ぐっとそれを握ってポケットに突っ込んだ。
最悪、探せば地図は見付かるだろう。但し、情報のない地図だ。─
────死人にメモは取れない。
ヘタに動いて禁止エリアに突っ込みでもすれば?
藤代に合わせる顔がねぇじゃん、イヤ顔すらなくなってんのかもしんねぇけど。
「・・・くっそ、あのバカ犬・・・面倒なモン押しつけやがって」
神社。
何処だ?
さっき聞こえた銃声に方へ行けば、少なくとも人には会えるだろう。
しかし「ちょっと地図見せてくんねェ?」なんて雰囲気は先ず有り得ない。
「あーもー・・・どーすんだよ・・・・・・」
「お・・・」
仏が2体。
草を掻き分けて鳴海はザカザカとそこへ近寄る。
胸から血を流して・・・映画なんかで見るように、手を正面で組んでいる風祭。
その傍に
「・・・誰だっけこいつ。えーと・・・GKか」
何となく見覚えがある。
どうやら自殺らしい。
鳴海に見える傷は刃物で出来る傷じゃない。凶器は、不破の手に握られたままだ。
「・・・お、ビンゴ。銃声コレだな」
不破の手から銃を取ろうと鳴海がしゃがみ込む。
しかし素人知識であれど死後硬直というものなのか、指は簡単に外れない。
小さい骨の折れる音の結果、やっとそれは外れた。
────やっと手に入れた、欲しかった武器。
ふと見れば荷物がまとめておいてあり、中を探ると弾や食料の残りが出てきた。
鳴海は不破に笑う。
礼でも言いたげに。
『負ける』気は一切してなかった。
夢を見た。
愛しい夢。
朝彼を叩き起こして、不機嫌な顔にキスをして、そんな日常。
騒ぐことが仕事の様ななルームメイトを義務のように落ち着かせて、そんな昨日。
ウトウトしながら授業を受けて、休む間もなく部活へ行って、そんな愛しい夢を。
確信を下さい。
貴方がココへ来るという確信。
来れないのなら永遠の夢を見に行かせて。
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死亡 【残り名】
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